第4話あれから

 あれから二年の月日が経った。今日から俺たちは高校三年生だ。あのピアノが届いた日から俺は狂ったように毎日ピアノを引き続けている。週に一度のピアノ教室に行ったり、麻里に教わったりしながら今までピアノの練習に励んできた。

 自分でもまさかここまでハマるとは思ってもいなかったが、その甲斐かいあってか中級レベルの曲ならスラスラと弾けるほどにはなっている。

 俺は届いた日からずっと愛用している電子ピアノを一目見た後に、部屋を出て高校に行く準備をしようと居間の方へと向かう。

 居間には食パンがテーブルの上に一切れ置かれているだけ。いや朝食だから適当でもいいんだけどさ、せめて焼くとか隣にジャムをえるなりしてほしいものだ。まあ別にいっか。俺はテーブルに置かれている食パンを一口で口に全て頬張ると、冷蔵庫に入っている牛乳で流し込んだ。

 よし、あとは着替えと歯磨きぐらいか……。俺は洗面台に歯を磨きに行くと、洗面所で化粧をしている母親がいた。


「おい母さん。邪魔だからどいてくれ」


 俺は母親を無理やりどかすように横に押しのけて、コップに入っている歯ブラシを手にとる。


「ちょっと悠人。お化粧が崩れそうになっちゃったじゃない!」

 

「はいはい」


 母親の話を適当に流して、俺は歯を磨く。30秒ほどで済ませて俺が洗面所を後にしようとすると、母親から声をかけられた。


「今日はピアノだからね。忘れずに行くのよ」


「わかってる」


 今日は習っているピアノの日だ。母さんは毎週この日になるといつもそう行ってくるが、俺は一度たりとも忘れたりサボったりしていない。だから最近しつこいと思っているが、それが母親の優しさだと思うと強くは言えない。

 そんなこんなで準備が終わると、ちょうどベストタイミングで家のインターホンが鳴る。

 この時間にインターホンを鳴らすのなんて一人しかいない。もう何十年も鳴らされ続けているからいい加減慣れた。

 急ぎ足で玄関に向かい、


「行ってきます」


 と声をかけて家のドアを開ける。開けた先に待っていたのは、幼馴染の麻里だ。


「おはよ」


「うん、おはよう」


 そんな挨拶から、俺たちの一日が始まる。


「じゃあ行くか」


 そう行って、遅すぎず早すぎない速度で高校に向かう。


「そう言えば悠人、春休みの宿題やった?」


「え? なにそれ? 知らないんだけど」


「いやいや知らないはずないでしょ。昨日言ったじゃん。どんだけ記憶力ないの? 鳥なの?」

 

「いや別に三歩歩いたら記憶なくなったりとかしないから。まあじゃああとで」


「--見せないよ」


 俺が言い切るより先に、俺が言おうとした言葉を察してしかも拒否された。なんなのこの子、エスパー? 

 そんないつも通りのやり取りをしていたら、いつの間にか高校についていた。俺たちは高校に着くと、共に下駄箱へ向かう。下駄箱の位置は毎回同じだ。学年が変わるからと言って、下駄箱の位置が変わるわけではない。俺は去年使っていた下駄箱の中に革靴を突っ込むと、カバンに入れていた上履きを取り出す。

 麻里の方も上履きを履いている。そんな麻里を置いて……というか、勝手についてくると思い待たずに先に行こうとすると、首根っこを掴まれた。


「グゥ!」


 情けない声が出た。


「なんだよ! いきなり掴むな」


「まあまあ。ちょっと飲み物を買いたくてさ。待っててよ」


 そういうと麻里は下駄箱の近くに置いてある自販機に行き、イチゴ牛乳と書かれた紙パックの飲み物を買っていた。あいつほんと、イチゴ牛乳好きだよな。

 この高校に通ってからというもの、麻里は一週間に一度のペースでイチゴ牛乳を買っている。この光景もいい加減慣れたな。イチゴ牛乳を買った麻里は、それをカバンの中にしまい。


「じゃあ行こっか」


 と、ニコニコ顔で言ってきた。俺はなにも言わずに首を縦に振ると、歩みを進める。下駄箱から斜め左にある階段を3階まで登り、登った先を左に曲がるとA~Fとかかれた教室が並んでいる。俺と麻里は三年E組と書かれた教室に入り、自分の出席番号の席に座る。

 俺たちは去年二年E組だ。この学校にはビジネス教養科と普通科の二つの科がある。A~Dまではビジ教。E~Fが普通科だ。まあこんなクラスが少ないと同じクラスになる可能性も高くなる。なのに幼馴染の麻里とは違うクラスになってしまった。まあいいか、高一と高二は同じクラスだったんだし特に悲しくもない。

 逆に麻里と違うクラスになることによって嬉しいこともある。例えば男子の視線。麻里は顔と愛想だけはいいから、やたら男子からモテるのだ。だから麻里が俺に話しかけたりしてくると、男子から謎に攻撃される。物理的にも精神的にも。

 だからと言って、男子と仲良くないというわけではない。むしろいい方だと俺は思ってる。攻撃されると言っても割とノリみたいなところが多いいし、別にそこまで嫌じゃない。他には誰と同じクラスだろうと貼られているプリントを見ていると、一人目につく人物の名前が目に入った。

 佐藤リアム。この名前……ハーフか? なんか漢字とカタカナってすごい違和感があるな。そう思いながら、俺は自分の席へと戻っていった。












 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る