第3話始まるピアノ生活

 バスに乗ってから数十分の時が経ち、俺たちは家に着くことができた。なんの変哲も無い道路沿いに建てられている一軒家が俺の家だ。ちなみにその隣にある造形が全く同じな家が麻里の家だ。

 俺は自分の家に入ると、「ただまー」と適当な挨拶をして母親の元へ向かおうとすると。


「お邪魔しまーす」


 後ろから麻里がついてきた。


「嫌なんでついてきた? 家帰れよ」


 俺がめんどくさそうにしっしと麻里を追い払おうとすると、その言葉に腹を立てた麻里が無理やり家に上がり込んできた。


「おい勝手に……」


「こっちはピアノのこと何にもわかってない悠人のために手伝ってあげようと思ったのに、その言い草は無いんじゃ無い?」


「まあ確かに手伝ってもらえるのならありがたいけど」


 じゃあ入る前に一言ぐらい言ってほしかった。まあいいか。はっきり言って今の俺は勢いだけでピアノを始めようとしている。ピアノに関して言えば右も左も分からない素人だ。

 中学までピアノをやっていた麻里に教えてもらえるのなら助かる。

 

「じゃあ居間に母さんがいると思うから」


「わかった!」


 何故か上機嫌な幼馴染を居間に連れて行き、俺は母さんと三人で話し合った。

 と言っても、俺はほとんど聞いてるだけで麻里が「この電子ピアノはいろんな音が出せる!」とか「これはいい素材が使われてるとか」とか言って、それに母親が「でも値段が」と言っている状況だ。

 ピアノの違いとかよくわからんが、俺が下手に口出ししてもらうより全部麻里に任せてしまった方がいいと判断して俺は横で聞いているだけにした。俺が弾くのにそんなんでいいのかと自問したくなるが、まあ大丈夫だろ。

 そんなこんなで一週間が経ち、俺の家には一台の電子ピアノが届いた。


「やっと届いたか」


 目の前の黒い電子ピアノを見て、俺は感動していた。やっと待ちに待ったこの日が来た。

 そんな俺の様子を見ていた麻里は、白の鍵盤を押しながら。


「ねぇ、悠人はなんの曲が弾きたいの?」


 そんな疑問をぶつけてきた。曲か……。それは俺がピアノを始めようと決心した日から決まっている。


「あぁ。曲名はわかんないんだけどさ、あの金髪の子が弾いてた曲を俺も弾きたいと思ってるんだよね」


 それを聞いた幼馴染は、はぁと呆れたようなため息をついていた。


「いい、悠人。あの曲は悠人みたいな初心者じゃ十年経ってようやく弾けるかどうかレベルの曲なの! それも毎日欠かさず練習してようやく弾けるかどうか……」

 

「そ……そんな難しいのか?」


「えぇ、私でも弾けるかわからない」


「それは……すごく難しいな」


 あの麻里が引けないかもしれないとなると、それはもうすごい難曲なんきょくなんだろう。俺が難しい顔をしていると、麻里は自分の携帯をぽちぽちといじるとその携帯を俺に向かって放り投げてきた。


「はいこれ。あの子が弾いてた曲よ」


 そこに映されていたのは、「リスト/ラ・カンパネラ弾いてみた」という題名の動画だ。俺はその動画を、無言で見続けた。





















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