第2話始める動機
俺の言葉を聞いた麻里は、元から大きい目をさらに大きく見開いて。
「は、え? あんたいきなりそんな
「ざ、戯言ってお前……」
俺の言葉を戯言って言いやがったこいつ。まあそう思われても仕方がないかもしれない。俺は結構冗談が好きだしな。
でも今言った言葉は冗談ではない。本気だ。あの少女の演奏を聞いた俺は彼女に魅了されていた。
もう一度あの演奏を聴きたい。叶うなら自分で弾いてみたい。そう思うのだ。
だから俺は本気でピアノを始める。
「まあとにかく俺は本気だから。早速母さんにピアノを買ってもらう」
「ちょっと、え? 本気なの? 悠人がピアノとかどういう風の吹き回し?」
いまだに俺の言葉に混乱している幼馴染。だが俺は誰になんと言われようとピアノを始める。俺は混乱している幼馴染を
3回ほどコールしてからピッと着信がつながる音がした。
「あ、母さん? 急で悪いけどピアノ買ってくんない?」
「えぇ、ピアノ? いきなり何言ってるの? あんた、麻里ちゃんと一緒にピアノの演奏会行ってるんじゃなかったの?」
「いや色々あったんだよ。いいから早く買って」
俺が母親にピアノを買うように
「ちょっと悠人! いきなり頭の悪いこと言って自分のお母さん困らせるんじゃないわよ」
「ちょ、うるさいな。今電話してる最中なんだから少しは空気読んでくれよ」
「な、なんですって! さっきから急にピアノがやりたいとか言って、少しは落ち着きなさいよ」
「あ、麻里ちゃん隣にいるの? ちょっと麻里ちゃんに変わってちょうだい。私ピアノのことなんてわからないわよ」
ギャーギャーとうるさい声が両方の耳から聞こえてくる。いやこんな状況にしたのは俺かもしれないけど、流石にうるさい。俺ははぁと短いため息をついて前を向くと、見知らぬ老人と目があった。そしてその老人は俺と目があうや否やすぐさま目をそらした。
あれ? なんで俺は名も知らぬ爺さんにみられてたんだ?
そんなことが気になった俺は、自分の周りを見渡してみる。すると、会場から今出てきたであろう観客たちが俺と麻里の方に視線を向けている。
まあこんなに騒ぎ散らかしてたらそりゃ注目されるよな……。恥ずかしくなった俺は、母親との電話を切りまだ何か言っている麻里の手を無理やり引っ張りバス停へ向かった。
「は、ちょ、まだ話は終わってないんだけど! 手を離せー」
麻里は何か言っているが、そんなことに聞く耳を持たずに俺は人ごみをかき分けてバス停へ向かう。ほどなくしてバス停に着くと、ちょうど俺たちが乗る予定のバスが来た。
俺に無理やり手を引っ張ってこられた麻里は、はぁはぁと息を切らしている。
ちょっと早歩きしただけで疲れたのかよ。俺は幼馴染の体力のなさに驚いていた。バスに乗りながら俺は。
「なあ麻里。その体力のなさは正直やばいぞ」
そんなお節介な警告をした。そんなことを言われた麻里は、またも俺のことを睨みつけてきた。
「さっきっからなんなの? 会場出てから悠人おかしいよ? ピアノの幽霊にでも取り憑かれたんじゃない?」
「ピアノの幽霊ってなんだよ。そもそも俺はおかしくない。おかしいのはいつも周りで、俺はいつも正しい」
「きも……」
二文字の
俺は心に傷を負いつつ、バスの座席に座る。俺の後ろをついてきた麻里も隣に座ると、顔をこちらに向けて話しかけてきた。
「じゃあ悠人。さっきの話の続きをしてもらうわよ」
「続きって……。別にさっき言ったあれで全部だ。俺はピアノを始める。それ以上でもそれ以下でもない」
「本気……なの?」
「あぁ、やると決めたら最後までやる」
「でもどうして急に始めようと思ったの?」
そんなことを聞いてくる幼馴染に、俺はうーんと
「別に簡単な話だよ。さっき会場で最後に弾いてた金髪の演奏者いただろ? 俺はあの人の演奏を聞いて、弾いてみたいって思ったんだよ。ただそれだけ」
割と簡潔にまとめると麻里は最初呆気にとられた表情をしていたが、そのあとにふふっと笑うと。
「まあ……いいんじゃない」
なんてことを言ってきた。なんで少し上から目線なんだ。まあでも確かこいつも前にピアノをやっていたし、機材とかその他
こんなにテンションが上がったのはいつぶりだろう……。早くピアノを弾いてみたい。その気持ちが、どんどんと俺の中で大きくなっていった。
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