episode.1 番外編 裳花
これは、竜花と白兎の出会いの直後。
竜花は少女を横抱きにして、竜花たちの拠点である塔に向かっていく。
玄関の扉の前には、腕組みした女性が寒そうに壁に寄りかかり桃色の瞳だけをこちらへ向けていた。
肩につくギリギリの桃色ショートの髪。長い布で左に少し髪を束ね、それも肩につくくらいあり、布は風に大きく揺れている。肩の露出する桃色の振袖を身にまとい、濃い紫色のミニスカートをはき、太ももを寒気に晒している。膝から靴までは白の靴下で覆われ、茶色の靴を履いている。
その女性は冬を感じさせない、あるいは、見てるだけで寒くなりそうな格好で、寒い中玄関で突っ立っていた。
竜花は彼女の様子を見て眉をひそめる。
「何してるんだ、裳花」
裳花と呼ばれた女性は白い息を吐きながら竜花をほんの少し睨みつける。そしてすやすや眠る白兎を安堵したように見つめる。
「待っていたの。話は聞いてたでしょう」
裳花の言う『話』は、白兎の手助けを依頼してきた神、四季神が一柱、夏を司る夏季神(かきのかみ)が数年前にしてきた話だ。
裳花は、竜花と同じ神であり本来、一つの神の括りになるはずだったのだ。
括りの例として、四季神がある。四季神は春夏秋冬それぞれの季節を司った神四柱を一括りしている。現在一柱欠けているが。
竜花や裳花らは六柱で一括り、『六神』となる予定だった。だが竜花を最後に、神は生まれることが出来なくなり、竜花含め五柱となった。一柱足りないため、それら五柱の神はそれぞれ独立するようになった。『元六神』同士でも稀に交流することもあった。
竜花は他人と関わり合うことが苦手であるため、他の神と交流を取らない。それどころか『六神』とすら会話は少ししかない。
話を戻そう。
竜花は子供のお守りやどうせなら子供と関わったことすらない。
それを危惧した夏季神は竜花の苦手としているその点を補えるように、女性の神でそういった世話をできる裳花を一時の応援として送り込んだ。一通りの作業を終えたら裳花はまた、神の世界、天上の世界に戻る予定だ。
竜花はその話は聞いたし、真実覚えている。しかし。この寒い冬の中、防寒着を身につけず何をしているのかとてつもなく疑問に思った。神は基本的に体温を感じることが出来る。一部の神は、その性状により感じ方は変化するが。
竜花は自分の疑問を率直に彼女に問う。
すると裳花は少し戸惑うように答える。
「え?早く…いえいえ、その子がどういう状況なのかいち早く知りたかっただけ。だいたい、いつまでその場所で突っ立っているの。早く塔へ入れてあげなさい。その子も貴方も体を冷やすわよ」
お前が言うのかと竜花は疑問を浮かべたが素直に塔に入ることにした。
竜花は白兎をベッドに寝かせ、毛布を掛けた。
裳花はこの国の異能力で創られた仄かに暖かい包帯をもち、竜花に、台所で暖めている食事を持ってきて欲しいと頼んだ。竜花は部屋を離れ台所へ向かう。
そのうちに裳花は白兎のワンピースを脱がせて、頭以外の全身に包帯を巻いた。この包帯は、体に癒しと温もりを与える。疲労し冷えきった白兎の体に最適だと、夏季神がこの国のものを用意していた。
また、いずれやってくる呪いを視覚的に隠してくれる。記憶のある白兎が竜花に見えないようにしてくれと頼んだらしい。
包帯を巻き終わり、白兎にワンピースを着せ、ベッドに寝かせた。裳花はベッド側の椅子に腰掛け、白兎を大切そうに目を細める。
本来呪いは持ち主が役目を終えるまで消えない。裳花は、竜花と白兎の呪いを知っていた。白兎は転生で記憶が完全に封じられている。竜花は転移であるため、一部の記憶が封じられているだけ。裳花はある期間内なので代償は特にない。
世界の決まり事に反しているが、裳花は彼女たちに早く記憶を取り戻して欲しいと思う。とても辛い記憶ではあるが、思い出して欲しい。
裳花はふらりと椅子をたつ。部屋のドアノブをゆっくり捻る。
全然足りないけど、これで恩返しになればいいな。
竜花は食事を乗せたお盆を持って廊下を歩いていた。すると裳花が階段をゆっくりと降りてきた。役目は終えた、もう帰るわと、言い残し淡い桃色の光を残しながら消えた。
竜花は静かに心で感謝を告げた後、白兎のいる部屋へと向かった。
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