第145話 A.D.4021.有るべき場所

 ほんの小さな時間ではあったが、セブンスとナインが起こしたビックバーンはこの世界に大きな恵みを与えてくれた。

 光の出る空間の隙間から、数十万もの未確認の新しい星が発生したからだ。


 資材の枯渇により、終末を待っていた人類には未開拓の星は新しい果実。

 青い瞳の王女は惑星の改造に強い制限を発し、人間だけが快適な星は作らせなかった。


 それでも「資源」「食力」「自然」を手にした人類は沸き立っていた。



 戦艦サンタナが上昇を始めた。

 クロム以外のメンバーが乗っており、首都星を離れようとしていた。

 シュティレの腕をとって離さない、テルルが思いつきで言った提案。

「ねえ、このメンツなら海賊とかやってみない? 面白そうでしょう!」


「はあ?」呆れるレニウム。「お、いいね」鈴々とフィフスが同意する。

「戦えるならどこでも」シュティレが戦士の言葉を出す。


 とりあえずは商業惑星へ行く事になった「狭いけど住むところあるよ四階で階段だけどね」とテルルが言ったからだ。

「あのぼろアパートか」アイアンサンドとリンが落胆する。


 人類は新たな段階に進む。帝国王女が帝国星の廃止と、州の独立制度を掲げたからだ。反乱軍だったクロム達にも州が用意された。


 これからは全て自由なフロンティアが、人類にテルル達にも広がっている。


 各々のマシン――フィフスドール、シックドール・クイーン。

 帝国軍の新旧のヘルダイバ。

 自由軍のテルルのスパロー。

 各々を回収して、戦艦サンタナは、首都星を飛び立とうとしていた。



「ねえ……クロム……一緒に来ない?」

 懸命に……やっと口にした鈴々の問いに、少し赤くなった頬のクロム。

「うん……わりい、待ち人がいるんだ」

 鈴々が一瞬目を閉じた……それからは元気に答えを返す。

「そっか。うん、それがいいよ。でも浮気はだめよ。私たちの姉妹なんだからね!」

「……ばか、そんなの関係ねーーよ……悪いな鈴々、ほんとすまん」


 鈴々はクロムの言葉には答えず、元気にサンタナへ乗り込んでいった。


 サンタナが急上昇を始めた、手を振るクロムの後ろから、近づいてきたセブンスが呟く。

「……行っちゃたね。よかったの? 鈴々やナイスボディのフィフス姉さんもいるのに」

 横に並んだセブンスにクロムが答えた。

「そうだな。もったいないかもな」


 セブンスが頬を膨らまして文句を言う。

「なにそれ!? 本気ならぶつわよ!」


 怒ったセブンスを見るクロムは、見たこともない優しい表情を見せていた。

 オレンジ色の夕方の景色に溶け込む二人は、遥かな過去の記憶が蘇る。


「あ。この景色……覚えているよ」

 言葉が止まったセブンス。見つめあう二人。

 ここまでたくさんの事があった。

 これからも色んな事が起きるだろう。

 でも……セブンスはクロムに向かって歩を進めた。


「私はまだ死に方を見つけていないの。でもね、これからは――あなたと生き方を見つけるの」

 背伸びしてクロムに口づけしたセブンス、クロムはやさしく赤い目の女神を抱きしめて囁く。

「二千年の恋はこりごりだ。でも、おまえが生き方を見つけるまでなら……一緒に居てやってもいい」


 セブンスは、クロムの胸でしばらく、愛しそうにしていた……沢山の思い出があふれ出る

 

 顔を上げたセブンスの顔を見て首をかしげるクロム。

「おい、どうしたんだ? おまえ、その瞳」

 セブンスがウィンクした……青い瞳が美しい。

「ふふ。置いてきちゃった! あるべきところにね」

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