第98話 A.D.4021.愛しさの存在
人間より遙かに優れた目を持つセブンスだから捉えた悲劇。
愛する人を失った。でも現実感がない、悲しみが湧いてこない。涙もでない。
ただ、呆然と肉片と化したクロムの方向を見続けていた。
「さて、セブンス。クロムは死んだ、全てはおまえのせいだね。エイトには助けられ、シックスには教えられ、私にはクロムを殺される」
挑発するようにセブンスに話し続けるフィフス。
「弱いんだよ決定的に。あんたは心が脆弱すぎる。自分自身さえ守れないのに、表に出てくるから……全てを失う事になる」
セブンスは挑発を続けるするフィフスを見た。
「姉さん、弱いことがいけない? 少しずつしか進めていない私は……ナンバーズドールとして失格?」
フィフスにというより自問している様子のセブンス。
「愛を求めちゃいけなかった? 鈴々を助ける事は本当に出来なかった? フィフス姉さんを殺せば新しい世界が始まるの?……」
黒きマシンの中でセブンスの呟きを聞いて、目を閉じるフィフス。
「すべては私のせい? 生まれるべきじゃなかったの? 私はいらなかった?……クロムも失う?」
魂の抜けた人形の呟きに、飽き飽きしたと立ち上がったフィフス。
「まだ、だめなのか。ならば自分の命で理解しろ」
フィフスドールが悠々動き出す、四隅に装備されたガトリングガン。
ガンというより大砲といった大きさと威力を持つ。砲身が回転を始めた。
巨大な砲身から、大量の実弾が打ち出された。
シールドを失い両腕も機能しないセブンスドールに、容赦なく打ち込まれる鋼の実弾に、戦闘OSファルコンは、呟き続けるだけの人形セブンスに代わり、懸命に操縦し逃れようとするが、紅の美しいボディは次々とひびがはいり、砕け散っていく。
「セブンス! しっかりしてください。このままでは、あと一分も持ちません」
冷静なはずの戦闘用プログラムが悲鳴を上げる。だが、セブンスの目はうつろにクロムが存在した空間を見続けている。
右肩が吹き飛び、左右の脚も砕け散った。
かつての優雅さを見せた美しい紅の機体はすでに消滅直前だった。
それでも容赦なく破壊を続けるフィフス。
ついに耐えられなく崩れ落ちる紅の機体。
衝撃とともに粉々になり、まるで氷の固まりをハンマーで叩いたように、空中に紅が散らばった。
セブンスは完敗し、その紅の機体も完全破壊された。
「結局、なんにもなかったね。フィフス強いよ。でも……アイアンサンド」
上空に浮かぶ脱出艇から戦闘を見ていたリンが呟く。
「でも、なんだ?」
美しい黒髪を持つ少女アイアンサンドが聞く。
「でもね、やりすぎじゃない? 姉妹なんだよね。恋人を木っ端微塵、セブンスドールはスクラップ。なんでそこまでやんなきゃいけないの」
フィフスのチームメンバのリンの初めての、フィフスへの批判めいた言葉に、アイアンサンドがディスプレイを見た。
「私たちとは背負ったものが違うのだろう。人類の未来を決めるのはナンバーズドール。一時の感情で動いているわけではない……だが、確かにこれは……これでいいのかフィフス?」
アイアンサンドの視線は完全に破壊されたセブンスドールへ向けられた。
「そうか……これで終わりじゃないのか」
終わりじゃないアイアンサンドの言葉……それを待っていたように、黒い点が紅のマシンの残骸の上に現れる。
漆黒の点は球となり大きな渦を作り出す。
セブンスドールの破壊された破片がすべて吸い込まれた。
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