第97話 A.D.4021.クロムの命
「ここよ! シールド解除! 重力剣最大パワー!」
紅のマシンの左手に握られた剣が。大きく広がり威力を増大させた。
セブンスが間髪おかず、剣を縦にフィフスへと振り込んだ。
絶対絶命のフィフスだが不敵な笑みを見せた。
「フフ、アンカー発射」
フィフスドールの下部から大型のアンカーが打ち出され、振り下ろしたセブンスドールの左腕に巻き付いた。
「おしいけね。リズムが一緒なのねぇ」
フィフスの言葉と同時に、黒きマシンは回転を始め、アンカーが引っ張られ、セブンスドールは地上に叩きつけられた。
「戦いはね、相手の呼吸を読む必要があるのよ。いい動きをするようになったけど、リズムが同じ。シールド解放から剣の攻撃の呼吸がいつもおんなじ。そこに私を”倒せる”と興奮してるのだから、逆を取られるのも当然なわけさ」
セブンスは悠然と空中に浮かぶフィフスを見上げる。
「やっぱり姉さんは強い。でも、クロムの命がかかっている……」
「なにを呆けている!」アンカーの鎖を振り回すフィフスに、地上に何度も叩きつけられるセブンス。
高い高度から脱出艇で二人の戦いを見ていたリンとアイアンサンド。本来はフィフスドールの搭乗者だが、特別な命を受けてフィフスと別行動中だった。
「一方的じゃない。あたしの不安はハズレね。あのフィフスが負けるわけないもん」
リンの感想に複雑な顔をしたアイアンサンド。
「今のままならな。だがセブンスは感情を得て激変する。私はフィフスが心配だ」
二人のフィフスドールの操縦者は、本来なら一緒にいるはずのフィフスに思いを寄せる。
「それはそうだけど。でも、セブンスが変化する兆候なんてないじゃない? このままフィフスが勝つでしょ?」
アイアンサンドはヘルメットを脱ぎ、自分のストレートに伸びる黒髪に触れた。
「フィフスは私の黒髪が好きだった。自分のはカールがかかっているからと……あの馬鹿は、たぶんやる。どうしてもセブンスを変化させる気だ」
リンが身体全体で完全否定。
「そんなことない! フィフスは、このまま勝ってまた私達三人は一緒で……セブンスなんか関係ない!」
目を伏せたアイアンサンド。
「前にフィフスが言っていた。あいつの親父が”調和か革命”どちらかを選べと自分たちに言ったと。あの性格だ、フィフスは女王の唱える、調和、つまりなにもしないで滅亡を待つなんて、絶対に選ばない」
リンの声が小さくなった。
「……それじゃあ、フィフスはセブンスに」
アイアンサンドがうなずいた。
「レべリオン(反抗)に一票ってところか。人類の未来と二千年の恋が大切だと? フィフスまったく……自由気ままなおまえらしくもない」
うっすらとアイアンサンドの瞳が潤んだ。
地上では徹底的に叩きのめされたセブンスドールが地上に横たわる。
「セブンス、右手に続き左手も破損、剣を振るう事はできません。機体の損傷も甚大、ブラックホールエンジンも不安定な状態です」
「もう降伏か。つまらんね。じゃあ、こうすれば死ぬ気で戦えるかな?」
フィフスドールが悠々と空中で旋回して、ガトリングガンが一点に狙いをつけた。
絶望的な言葉に、思わずセブンスは操縦桿を放し天を仰ぐ。
「だめ! 姉さん!」
地上で地に伏したセブンスの叫びの中、フィフスのガトリングガンは三キロ先のクロムの身体を粉々に打ち砕いた。
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