第94話 A.D.4021.僅か前の時間

「クロムの元へ」高速で移動するセブンスドールが見せる、赤い光の軌道の中でセブンスの心が先走る。


 気持ちだけがあせる、それは先行したクロムのヘルダイバの部隊の安否、クロムは銀河でも名を知られた強兵……それでもセブンスの不安は大きくなるばかり。

 相手のフィフスはセブンス達ナンバーズドール中でも一番の戦上手。

(もしかしたらクロムが……ううん、そんなことない)

 揺らぐ気持ちを抑え込むセブンスに、クロムの隊の場所への到着をラバーズが伝えた。


「セブンス。敵基地上空です。降下します」

 セブンスの意識をやぶったファルコンの報告に、頷き身構える。


 高度を下げ始めた紅の機体。地上に降りたセブンスはファルコンの力を借りて、周りの状況を確認する。

 基地は門が破壊され迎撃用のブラスタ砲、ミサイル発射台などは完全に沈黙していた。


 注意を即して先に進むセブンス。基地内部で見たくないものを発見する、アルファ5仲間のヘルダイバで、目を背ける程の破壊度だった。

 ファルコンが検索してパイロットの死亡を告げた、セブンスは仲間の死に心を痛めながら、大きな不安は心臓の鼓動を大きく乱す。


 先に進むと想像とは違い、静寂が基地を覆い残骸で溢れていた。

 短い時間だが激しい戦いが起こったのが分かる。

 また一つヘルダイバの残骸を見つけ、また一人の仲間の死亡を確認する。

 

倒されたヘルダイバをサーチする、ファルコンは無口だったが、仲間のラバーズ、戦闘OSの最後の記憶を何回も見て、精神的ダメージを受けているようだった。


 人格をもつプログラムならではの現象で、ラバーズは人と同じ心を持ち、パイロットの守るべき愛しい者であり、たんなるOSではないとヘルダイバのパイロットならば分かっていた。

 戦闘時はパイロットもラバーズも一緒に帰還すると思っていた、だが今回は……。


「セブンス。全滅です敵……それと味方も」

 両手で顔を覆い、まだ思い出にもならない僅か前の時間を思い出す。


「さっきまでは十二機に仲間が乗って、それぞれのラバーズがいて、動いていた、戦っていた、笑いかけていた。それが全部なくなったの?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る