第82話 A.D.4020.セブンスの窮地

 クロムが弱々しく絶望を呟いた時、セブンスは窮地に陥っていた。


「さて、少し遊ぼうかな」

 シックスドールはドールの壊し方を心得ており、その気になればセブンスは既に破壊されたいた。

 対ドール用兵器は冷酷で強靱。圧倒的な速度とパワーで敵を圧倒。

 ただ強い拳と脚だけで、絶望と恐怖を浮かべる相手をなぶり殺すのが流儀だった。


「シックスドール……ちゃんと殺さないと、私にやられるわよ」

 精一杯の強がり、だがセブンスは腕、肋骨、膝を骨折し、端正な顔も切り傷が多く見られる。


「そうだな。とどめといくか。最後のあがきを期待しているよセブンス」


 軽いステップで身体を一回させて、背中から回転して蹴りをセブンスの頭部へ。

 砕かれた足、折れた腕も使って回避するセブンスの頭上を、レッドソールの円が描かれ、部屋の壁をガリガリ削る。


 横に転がり距離を取るセブンスに続けてかかと落とし。壁の傷が十字に刻まれる。


「おしゃれな靴ね、黒い外側に赤いソール。しかもジィーノZ粒子製か。その紫の化粧も個性的」

 とどめから逃れた、思っていたより動けるセブンスに関心したシックスドール。


「よく動く……この靴は私専用の特注品だ。これで数百のドールや人間を切り刻んできた。それにしてもさすがというか、こんなに長い間、私と戦えた者はいない。いいなセブンス……とてもいい」


 余裕を見せ続けるシックスドール。

 セブンスの攻撃は当たってもダメージを与えられない。

 既に回避する力も残ってなかった。


「太刀でもあれば」

 しかし自室に武器は持ち込んでいない。

 フン、シックスドールの左右の回転蹴り、かわしたセブンスに高速の拳の連打。

 ガードの上から肉を削られ血が肉が部屋中に飛び散る。


「だめ……もう耐えられない」


 動きを止めたセブンスにシックスドールがとどめの手刀を差し込む。


 胸に食い込んだ手刀を、楽しみながら少しずつ深く差し込んでいく、シックスドールが血を吐き出すセブンスを見てサヨナラを言う。


「じゃあねセブンス。あとは任せて。全員無残に殺してあげる……うっ、何、何してるの鈴々!?」


 シックスドールの動きが止まった、その瞬間、セブンスの左目に強い光が輝く。


「来い! 紅のマシン、セブンスドール!」


 部屋が振動して巨大な物体が急接近した事を教える。

 ガシャン、巨大な赤い拳がセブンスの部屋の窓を外側から破壊した。


「く、ばかな、部屋ごと破壊だと!? これは……七海の力か?」


 呟くシックスドールとセブンスが真空の宇宙空間に排出された。

 回転するセブンスを巨大な手が捕まえ、操縦席へと導く。


「大丈夫ですかセブンス」

 紅の破壊マシン、セブンスドールのOSであるラバーズが心配する中、素早く操縦桿を握ったセブンス。


「逃がさない! シックスドール!」

 飛び散った部屋の破片を蹴り、軌道を変えて逃げようとするシックスドールを捕まえたセブンス。


「降伏しなさい、姉のパートナーを壊したくはない」

「まったくタイマンにこんな玩具持ち出して。それにしても鈴々は……まあ、いいか。フフ、愛に生きたわけね」


 巨大な手に握られたシックスドールが笑った。 


「さあ、握りつぶしなさいセブンス。でも忘れない事ね。心の中にある欲望は怪物だとな」


 シックスドールの覚悟を見たセブンスは操縦桿に力を込めた。


 真空の音のしない空間で散らばっていく、シックスドールは、キラキラと美しく輝いた。

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