第81話 A.D.4020.クロムの戸惑い

 鈴の病室のディスプレイがオンになり、血だらけのセブンスと見知らぬ女が映った。

 急ぎセブンスの部屋に向かおうと立ち上がったクロムの手をつかんだ鈴々。

「セブンスの部屋はロックされている。部屋の画像は加工されて誰も異常には気づかない」


 立ち上がり鈴々を悲しい目で見たクロム。

「それがお前たちの運命だというのか。そんなもの変えればいいだけだ!」


 心の底から嬉しさを表した鈴々。つかんだクロム手を自分の首に近づける。

「うんうん、あなたはそう。今回もできる。セブンスを助ける事は出来る。私を殺せばセブンスは助かる。お願いクロム。ドールとしてではなく……鈴々、人間として。あなたを愛した女として。私を……殺して」


「シックスドールがセブンスを殺すのを止められないのか鈴々!」

 思わず鈴々の肩を掴んだクロム。

「セブンスがいなければクロムが自分のものに……その気持ちが私のイドの怪物がシックスドールを動かしている。普段は人間に紛れている彼女は、私からの起動指示で殺戮マシンとなる。でも発動はなかったの。先の戦いで私に死が迫った時も。だからもう私に起動する力はないと思っていた」


 クロムが納得できずに掴んだ鈴の肩を揺らした。


「じゃあ、なぜだ。なぜ殺戮モードが起動した?」

 鈴々は自室のディスプレイを見る。


「王女のせいだと思う。娘が言ったアルモニア、その言葉が私の非常用ロック解除のキーワードだった。強制的にシックスドールを起動する為の……」

 馬鹿な! 大きく首を振るクロム。


「自分の母親に人殺しをさせるだと!?」


 微かに笑った鈴々。

「あの子は私が母親だとは知らされていない。壊れたドールが王女の生みの親なんてあり得ないでしょう? 他のナンバーズドールと同様、帝国を守る兵器だと私のことは認識している。反乱軍の殺戮命令はあたりまえの行為」


 微かな笑みは消え、悲しみが溢れる鈴々。

「だからクロム、シックスドールを止めるの。私を殺して。彼女は自立型、自己の判断で行動する。今さら停止を命じても反応がない。急いでクロム」


 自分でクロムの手をとり、自分の首を掴ませる。


「あなたの力なら一瞬。さあ力を込めて!」

 どんなに戦闘で追い込まれても、笑って敵へつっこむクロムが、弱々しい口調になった。


「なんでだよ。ずっと一緒だったじゃないか。今までシックスドールは動かなかった。なんで今なんだよ。ナンバーズドールは最強で冷酷で強いんだろう? 俺に簡単に殺されるわけない。フィフスも小生意気なエイトも、味方のセブンスさえ、驚異的な……こんなのおかしい」

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