第80話 A.D.4020.鈴々の決断と想い

「そうね。あなたは全ての逆行を苦しみながら越えていく。そして必ず望みを叶える。私の好きなクロムはそんな人」

 もたれかかった姿勢を戻しクロムの顔を見つめる鈴々。


「ねえ、クロムお願いがあるの」

 急に改まった姿に構えたクロム。

「なんだ。急に姿勢を正してお願いなんて」

 鈴々は本当に嬉しそうにクロムへ頼みを伝える。


「私を殺して」


「!」声にならない驚き。そして思わず出たクロムの大きな声。

「ふざけるなよ! こんな時に」


 それでも鈴々の笑みは消えない。


「いいえ。あなたは私を殺すの。あなたがいいの」

 意味がわからないクロムが鈴々を見つめる。

「おまえの言っている事がわからないぞ鈴々。なぜ死ななければならないんだ? 先の戦いで命を拾った。それに順調に回復している」


 鈴々が窓に広がる宇宙を見て、初めて寂しそうな表情を見せた。。

「私は……人間じゃない」

「バカな! 確かに優秀な遺伝子だったが、ここの医師はおまえを人間だと言っていたぞ」


 視線をクロムに戻した鈴々。


「ドールを元に人として造られたの。だから限りなく、いえ人そのものに見えるはず。それも平凡な女にね」

「わからん! 何のために誰がそんな事をしたんだ」


 悩むクロムに優しい視線を向けた鈴々。

「私が人間として造られたわけは、王の子供を産むため。十二歳で慰み者として、先代の王の傍に置かれた。幼女趣味な王は私を玩具にして体もいたぶり続けた。そして十四歳の時に身ごもり……青い瞳の娘を産んだの」


 鈴々の突然の告白に言葉が見つからないクロム。鈴々が言葉を続ける。


「役目を果たし放棄された私は、放浪し、そしてあなたたちに出会った。そして魅かれたクロムに。でもね、それは仕方ない事なの。七海の遺伝子を持つ私達はどうしてもあなたを好きになってしまう」


「七海? 誰なんだそれは。遺伝子……おまえの母親か? それに私達とは。鈴々には兄弟がいるのか?」

 うん、頷いた鈴々。

「暴れん坊の姉と出来の悪い赤ん坊な妹。そして優等生な末っ子」


 クロムの顔色が変わった。


「バカなおまえはナンバーズドールの姉妹だと言うのか」

「ええ、私は六番目のドール、シックス。あなた達の敵。でもね、王の子供を産んだ壊れた私は自由になれた。あなたに会えて仲間もできて、全て忘れられたと思っていた。でも違った私の娘、新しい女王エルセルは望んだアルモニアを。だから私は……」


 鈴々の言葉をさえぎるクロム。


「例えおまえがドールズだとしても、命を懸けてみんなを守ってきた事実は変わらない。俺たちは仲間だ。過去は関係ない」

「嬉しい……本当に。でもね娘は調和を求めた。私はそれに答えなければいけないの。それが私の最後の役割。そう造られたのコドクプログラムに」


「鈴々、おまえは自由なんだ! そのコドクプログラムなんか無視しろ!」

「蟲毒はね最後の一匹になるまで終わらない戦いなの……二千年を越えた愛なの。哲士への七海の想い、いや呪いね……だから壊すしかない赤いレべリオン……反乱するセブンスを」


「……セブンスが反乱? それが王女と関係有るのか」

「ナンバーズドールは神を出現させる為に造られた。それが七海が造ったコドクプログラム。でもシルバは二つの可能性を開いた。滅びゆく人類に革新をもたらす者。人類を守護する滅亡を静かに見守る者」

「その革命を起こすものがセブンスだと言うのか」


「そう、セブンスは戦い、悲しみ、喜び、そして愛を得て世界を滅ぼす神となる。だから壊すの。私の戦闘兵器シックスドールが」


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る