第79話 A.D.4020.私のヒーロー

「ありがとうクロム。今日も来てくれて」

 鈴々の言葉に少し照れたクロム。

 女王の宣言と連邦軍の大敗があったが、いつも通り鈴々の病室を訪れていた。

「集合まで時間が出来たからな」

「フフ、優しいね」


 鈴の微笑に益々、照れるクロム。

「そんなことはないぞ。仲間だろう? 当たり前の事だ……どうかしたのか」

 クロムの少し赤みを帯びた顔に、鈴々がほほ笑むが表情に影が見られる。

「捨てられた私が仲間に囲まれて生きてこられた。クロムが傍に居てくれた。私はとっても幸せだった」

「どうした鈴々。今日はおしゃべりだな。さっきの画像でショックを受けたように思えたが」


 鈴々は新しい銀河の支配者、幼き青い目の女王にショックを受け、体調を悪くしたように見えた。心配したクロムが病室を訪れたのも、先ほどの鈴々の様子から加減を見るためだった。


「そのぶんだと、調子はまあいいようだな。少し顔色が悪いが。やはりさっきの放送が……病人のおまえには見せるべきじゃなかったな」


 クロムの武骨だが男らしい優しさが伝わる。

「やっぱりクロムは優しいね。ねえ、お願いしていい?…クロム、私の横に来て頂戴」

「うん? いいが、身体は大丈夫なのか」


 鈴々は自分のベッドの端に座り、ポンポンと右手で横を叩く。

 それを見たクロムはぎこちなく鈴々のベッドに座った。

 大きな体はベッドスペースの大部分を占め、自然に鈴々との距離が近くなる。

 クロムの肩に顔を乗せ、クロムの手を握る鈴々。


「どうした鈴々。本当に大丈夫か? 疲れているじゃないのか」

 項垂れかかった鈴々を心配するが本人は首を振る。

「ううん。こうして触れられるの。久しいから。とっても落ち着くわ」

 鈴々の態度にクロムは少し安心した。


「そうか。こんなのでいいなら、ちょくちょく来るぞ」

「本当にそうなら、いいでしょうね。でも、あなたにはセブンスがいる」


 一瞬困った顔を見せてしまったクロムが慌てて否定する。

「今はセブンスとは殆ど会っていない。嘘じゃないぞ」

 鈴々はうんうん、と頷いた。


「知ってる。時間があれば私の所に来てくれているもの。それにあなたは嘘はつかない。いや、つけないが正確かな。でも責任から生まれる行動と、心が望むものとは違うの。私はクロムが好き、あなたはセブンスがセブンスもあなたが好き。どちらの元にいるのが自然なのか。悲しいけど私はあなたの側に居られるのはこのケガのせい。私を気遣ったあなたの責任感のせい」


 肯定も否定もできないクロムを見て頷く鈴々。


「ほらね。こんな時は普通の男は、否定してあたしを大事だとかフォローするものよ。固まるなんて……もってのほかよ。まったく……図星だと認めているわよ」

「いや、俺はその……鈴々は大切で……セブンスとはその、あれだ」

「いいの。正直な私のヒーロー。あなたと過ごした時間は忘れない」


 いつもと違う鈴々の言葉に不安を感じ始めるるクロム。

「どうしたんだ。今日は変だぞ? 確かに今日の出来事はショックだったろうが、俺たちが敗北したわけではない。俺たちのチームなら帝国と戦える、十分にな」

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