第73話 A.D.4020.クロムの兄
「クロム。先の戦いでおまえは鬼神のようだった。最新のドールズ、エイト”光を操るドール”とも対等に戦った。それは……おまえの目的、兄貴の敵をとれたら自分の身体も命もどうなっていい……つまり死ぬつもりで戦っていたからだ」
首を振って強く否定するクロム。
「そんな事はない! 兄貴が殺された事は確かにショックだった……だが俺は冷静だった……そうだったはず」
自信が欠けるクロムの言葉に、レニウムは確信を得て答える。
「なにも変わらない。自分の兄が殺されても。さすがはクロム……強い……そう思っていた。先の戦いまでは。だが違った……やはりセカンドの死は影響を与えている」
「クロムのお兄さんが、フィフス姉さんに殺された?」
セブンスが、緊迫した二人の場で驚き呟く。
「私、クロムにお兄さんがいたのも知らなかったし、フィフス姉さんと戦った話も今聞いたわ」
セブンスの驚きに、レニウムは半年前の帝国との、砂漠の星での戦いを話しだす。
「半年前、この首都星を攻めるための唯一のジャンプ(恒星間飛行)可能ルートの確保が必要になった。中間地点にジャンプルートを守る帝国の砂漠の星がある。半年前……帝国軍の前線基地を我が軍は精鋭で奇襲攻撃した。そのチームの隊長がクロム・セカンド……クロムの兄だった。しかし、セカンドはフィフスに殺された。その時から以前から我が軍にあった疑問が解けた」
「疑問? 兄貴が殺されて、何が分かったっていうんだ!?」
半年前を思い出だしてイラつくクロムに、レニウムが答える。
「フィフス独りに我が軍は連敗し続けた。その最大理由は情報漏れだった。なぜかこちらの作戦は事前にフィフスに知られていた。その理由をクロム・セカンドは残してくれた」
あ、セブンスは小さく叫び、仮説を唱える。
「フィフス姉さんが反乱軍の情報を知っていた理由……もしかしてそれはナンバーズドールが持っている、全てのネットワークと接続できる力では?」
(見ていたのよ水槽の中から、姉さんがお父様に……何度も抱かれるの……)
セブンスは妹のエイトとお茶を飲んだときに、妹から聞いた言葉を思い出していた。
「そうだセブンス、お前達は自由にネットワークと繋がり、どんなセキュリティにも邪魔されずに、自由に情報を取得出来る。例えば、この部屋にもある監視カメラも自由に操作して、部屋の様子を確認できる……それを逆手に取ることにしたんだ」
レニウムが見るスクリーンに映る、進行中の反乱軍アウローラ自由連邦、
八千隻を越える大宇宙艦隊が帝国軍の首都星を目指し、真っ暗な宇宙を進軍していく中で、レニウムが続けた。
「偽の情報を流し前線基地からフィフスを排除し、敵の本星まで一気にジャンプして首都星を制圧する。それが今行われている進行作戦」
病室のディスプレイから手をゆっくりと叩く音。
「反乱軍さんは、仲間割れ?」
フィフスの真っ赤な唇から、漏れる笑い声にテルルが呟く。
「さっき、セブンスとレニウムが言ってた事は本当……フィフスはこの部屋を覗いているみたい」
全員がテルルに納得したが、レニウムは首を振る。
「その可能性は少ない。現在の状況は我が軍の進行と、それを知った銀河の人々が情報を欲しがり、ネットワークはパニック状態。フィフスがいかに優れていても、ここを探し出す事は出来ないはずだ」
レニウムの言葉にクロム、そしてセブンスが応じた。
「ふっ……そんな甘い女じゃねぇよ。例え見えて無くてもこっちの様子くらい……俺たちが揉めているのは分かっているさ」
「そう……フィフス姉さんは分かっている。でも、私たちの居場所には興味はない。姉さんは目の前に現れた強敵を倒す。ただそれだけ。絶対の自信と戦闘センスを持つドールだから」
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