第60話 A.D.4020.ヴァレットシステム
「やはりいい子ね、あなたのラバーズ」
フィフスの言葉が終わる前に、白いヘルダイバは、その巨体を静かにスムーズに始動していた。チームの準備を待ち、パイロットの意思を察し、ラバーズが自分で戦闘の口火を切ったのだ。
右肩の裏側に装着されていたブラスタ砲は、フィフスを刺激しないように、正面からは見えない位置、背中に隠していたが右手に移しフィフスに向ける。
「フィフス、何か不思議な感じがします。とてもチャーミングなあなた。だからこそ大きな危険を感じます」
巨大なヘルダイバの前に立つフィフスは、ちぎれかけた左手をぶらりと下げたままで、骨が折れ筋肉もズタズタの右手を、ゆっくりと動かし腰に当てて、斜めにモデルのように立ち微笑んだ。
「フフ、ここからはわたしのターンだと、さっき言った。この場所に立った時点で勝敗は決定しているのさ」
まさにフィフスの威風堂々。
優雅で美しい姿に心を惹かれながらも、ラバーズは動きを止めていなかった。
「大佐。包囲を完了しました。ラバーズのリンクも終えています。同士討ちはありません。目標を見失う確率も0.0001%以下です」
ヘルダイバの戦闘OSラバーズは、インフォメーションリンクにより、チーム全機で、瞬時に情報を共有出来る。
共有した情報により機体の調整をラバーズがそれぞれ行う事で、味方のに流れ弾が当たる事を防ぎ、敵の姿を全機で監視して死角を減らす事が出来る。
リンクされたヘルダイバのパイロットは周りを気にせず、一機のマシンのように全開で戦う事が出来る。
「ショルダーオープン! 追尾弾頭レディ!」
シュティレ大佐が叫ぶ。
大佐の行動をあらかじめ予想していたラバーズにより、既に発射状態にあった、ヘルダイバの肩に装備された十二機のミサイルがハッチから弾頭を見せた。
「ブラスタ砲は強力だがその分、射撃後にブラックアウトの時間が生じる。高エネルギーによる障害でカメラとレーダー類が数秒使えない。先ほどはそこをつかれて逃げられた」
操作にパイロットも加わり、機動力を一気に増加させた白きヘルダイバ。
「弾道攻撃ヴァレット起動! ミサイル発射!」
大佐の指示によりミサイル発射ヴァレットが起動。
攻撃の為に必要な手順をマクロ化、知能化し、敵の動きにより組み込まれた行動を、ヴァレットが操縦者に代り自動的に実行する。
人間の反射行動、熱い器を掴んだときに手を放す、それと同様にパイロットが考えなくても、反射でヘルダイバに行動させるためのシステムがヴァレット。
ミサイルを一斉に打ち出すのか、一発ずつ時間差で打ち出した方がいいのか、効率を計算しながら自動的に行ってくれる。
反撃を受ければ、ミサイルを肩のショルダーブロックに一時格納して、被弾を防ぐ事も可能である。
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