第59話 A.D.4020.動かないフィフス
フィフスはヘルダイバが射撃体勢に入ったと同時に、左手のリングを暴走させ、最大の衝撃波を生み出した。ヘルダイバのVTRでパイロットのシュティレ大佐が見た空間のゆがみは、フィフスが起こした衝撃波が空気を揺るがしたものだった。
「タイミングが難しかった。遅いと二人とも蒸発だし、早すぎると手の内がばれて、すぐに第二弾が来ただろうからさ」
何気なく答えるフィフスを見たシルバは、ドールの制作者でありながら、ヘルダイバのパイロットと同様の言葉を口にする。
「フィフス、衝撃を操るドール。まさに戦いの天才だな」
生みの親に褒められて、少し赤くなったフィフス。
「大した事ないって! それより……来るよ」
ブラスタ砲で穴を広げ、二人の前に白きヘルダイバの巨体が現れた。
フィフスの目の前に立った巨体十六メートル、ヘルダイバの外部通信がオンになった。
「自分の左腕を壊して、私の攻撃を交わしたのか? 凄まじいなフィフス」
帝国騎士団のエースパイロットの感嘆に、フィフスは意外そうに答えた。
「ふ~~ん。護衛軍っていったから、無能ばっかりだと思ったけど、あんたかなりやりそうね。ちょっとそそられる。それにその子もいい子みたいだね」
フィフスから褒められたシュティレ大佐は、戸惑いながらも作戦通りに行動を続ける。
「衝撃のドールに比べれば所詮は内勤のパイロットだよ。君の戦闘への才覚が羨ましい」
会話を続ける、フィフスとシュティレ大佐、目の前のヘルダイバは特に怪しい動きを見せず、立ったままで重火器も構えていない。
「センスねぇ……わたしがそそられる男達は、そんな、あやふやなものを頼りにはしない。センスは99%の努力と経験の上に築かれるもの。わたしが恐れるのは、あんたみたいに、常に戦いに身を置いてきた古強者かな」
まっすぐ、パイロットが騎乗する、ヘルダイバ胸の部分を見つめるフィフス。
「ラバーズ、どうだ? もう気がつかれている。さすがフィフスという事か」
外には聞こえない、ローカル通信でラバーズと会話するシュティレ大佐。
「はい。既にチームの他のラバーズにインフォメーションを、高速パケットで送信しました。作戦スタンバイまで二分三十秒です」
ローカル通信で二人が確認した作戦開始、その間も続けて話すフィフス。
「あと2分くらいか? そうやってポケッと立っているのは、わたしにまだ右手が残っているからでしょ? あんたの単独攻撃では逃げられてしまう可能性があるから。市街地では人間のような小さな目標は、検索も攻撃もヘルダイバには向いていないからさ」
「さすがだなフィフス。だがもう遅い。私のチーム全機でラバーズのリンクは完了している。一機では確かにおまえを逃がす可能性があるが、全機の視点が協調して届くようになった今は、完全に把握出来ている。逃げられないぞ、フィフス」
追い込まれた状況、だがフィフスは笑みを浮かべる。
「フフ、そうか。でもわたしは逃げる気などない……と、いうより逃げられないんだけどな」
シュティレが騙されないと答える、チームの体制が整う時間稼ぎも含めて。
「さっき、右手が残っていると言っただろうフィフス? リングを暴走させ、衝撃波で瞬間移動出来ると」
「フッ、その子に聞いてみなよ。わたしの現状のサーチは終わったみたいだから」
ローカル通信でラバーズに確認する大佐。
「ラバーズ。フィフスは何を言っているのだ?」
「大佐、フィフスの右手は殆ど動きません。数カ所の骨折、靱帯の断裂が見られます。たぶん、辛うじて一、二本の指が動く程度と思われます。繊細な衝撃のリングの操作など、とても出来ません」
「やはり、よい子だ。そのラバーズは良く学んでいるよ」
フィフスの言葉に、シュティレ大佐が口を開く。
「フィフス、おまえはローカルで遮断した通信も聞けるのか?」
「いいえ。でも、大体予想はつくよ。さて、その子に聞いたと思うけど、わたしの右手は殆ど動かない。さっきのあんたの攻撃を回避した時、右手でお父様を抱えて飛んだ。あの速度で人を片手支えるなんてドールでも無理。だからこれは幸運の部類だけど、ここに飛ぶまで右手は。奇跡的にギリギリ持ってくれたわけ」
フィフスの行動に違和感を持った、シュティレ大佐が尋ねる。
「フィフス、この場に止まり時間を過ごせば私のチームの包囲が終わり、おまえは逃げられなくなる。私が単独で攻撃しない理由も、おまえの言う通りで、衝撃波を使い移動をするのを恐れる為だ。人間が市街地に混ざれば、ヘルダイバでの追跡は難しい。全てはおまえの読み通り。なのになぜ、逃げられないとここでにいる?」
すっくと立ち斜めに構えたフィフスが、巨大な白いヘルダイバを睨む。
「わたしが逃げる必要がないからさ。ここからはわたしのターンが始まる。散らばっているあんたのチームが集まるなら、丁度いい……全員まとめて、ここで殺してやるよ」
舌で真っ赤なルージュの唇をぺろりと舐めたフィフス。
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