第58話 A.D.4020.戦いの天才
強烈な閃光が王宮を走った。
割れたステンドグラスと壁は一瞬で蒸発し、玉座の前方にあった壁は消滅した。
突き抜けたブラスタ砲からのエネルギーは、大きな穴を空けて通りの向こう側の新築の高層ビルの一階にも被害を出す。
「射撃完了です。予想被害の範囲内で収まりました」
ラバーズの言葉通り王宮の床を削ったブラスタ砲の光弾は、室内には最小限の被害しか出していなかった。
「現状を確認し報告しろ」
パイロットの言葉にコクリと頷いた紫の髪の少女。
「王宮には、王以外の生命反応は有りません」
オープンされた回線により、ラバーズから直接戦果を聞いた王は、自慢の髭を撫で、いつもの落ち着きを見せていた。
王の周りにはヘルダイバの攻撃より舞い上がった、石片や、金属の破片が、まるで時間が止まったように空中に浮ぶ。
「これがヒッグス粒子の濃度をたかめ、過大な重量を与えて全てのものを止めてしまう重力の盾か……実に良くできている」
王が見ていたのはブラスタ砲で飛び散った炎。マスグラビティにより、炎までが空中に止まっていた。
王は白いヘルダイバを見上げ、賛辞を送る。
「見事だ。シュティレ大佐」
自分の名前を呼ばれたヘルダイバのエースパイロットは、コクーン(操縦席)で戦闘スーツのまま頭を下げた。
「ただ、相手はフィフス。シルバが造ったドールの中でも、戦闘の天才と言われた者だ。気を抜かぬことだ」
「はい、仰せのとおりです。王は直ちに脱出を。お急いそぎください」
「うむ。この場は頼んだぞ。大佐」
「かしこまりました」
会話が終わってスイッチが切られたマスグラビティの、展開が止まり、空中に止まっていた石片、金属片、炎が床に落ちる。
王の座る玉座が微かに振動し、床に沈み込んでいく。
王宮の下は迷路で脱出口が張り巡らされていて、王座のまま地下に降りた王は、脱出用の宇宙船へ移動した。
ブラスタ砲の高熱で焼かれた部屋は、まだくすぶっていた。
「ラバーズ、VTRを確認してくれ、シルバとフィフスが蒸発する瞬間を確認する」
「了解しました……サーチしました、ビームが届く瞬間です」
ディスプレイに2分23秒前の画面が映った。
「スローで再生します」
閃光が徐々に伸びる先に居る二人、シルバとフィフスが映っている。
「いくら戦いの天才といえども、ヘルダイバのブラスタ砲をまともにくらっては……なんだ、あのゆがみは?」
ビームが二人に届く直前にフィフスの周囲の空間がゆがみ始め、直後、二人の姿が消えた。
「なんだと!? どういうことなんだ。瞬間移動でもしたというのか? あの空間のゆがみはなんだ!?」
即座に二人の姿をアップにして、VTRを超スローモードで再度、再生するラバーズ。流れる画面を見たシュティレ大佐は驚きを隠せなかった。
「そんな……バカな。こんなやり方で……我々の攻撃を回避したというのか。ありえない。フィフス。衝撃を操るドール……まさに戦いの天才」
「痛っ!」シルバが身を起こした時にフィフスが呻いた。
瓦礫と化した王宮の正面の道路に倒れる二人。
「ここは? どうやって、王宮の外に出たんだフィフス?」
問われたフィフスは、身を起こしながら答えた。
「魔法を使った。ちょっと痛いやつ」
身を起こしたフィフスは、全身に火傷を負い痣だらけだった。
しかしシルバが見たものは、思わず言葉を失うもの。
「フィフス、おまえ……それ」
「あ、これ? 少し痛いけど、最善の方法だったよね? ブラスタ砲から逃げる魔法としてさ」
シルバに笑ったフィフスの左手は、肩から外れ複雑に捻れており、辛うじて皮だけで身体に付いている状態。
「おまえは衝撃のリングを密着モードで最大パワーで使ったな?」
シルバの問いに、笑みを浮かべたまま頷くフィフス。
「そう、普段は腕から浮かせて、身体からは離しているリング。攻撃時の衝撃を自身が受けない為。移動する時は身体に密着させる。当然、その時はリングの衝撃波は小さくする。それを今回は付けたままで全開で衝撃波を撃った」
フィフスは身に受けた衝撃破で、ビームに焼かれるより早く外に飛び出た、その時に壁に当たり大きなケガをおった。
心配そうなシルバにエイトが笑みを見せた。
「こんなのたいした事無いよ。ちょっと痛むけど」
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