第54話 A.D.4020.もてる者の慈悲

「空中からよく見える。間抜けなマシンと王様……ウフ、さあ全身で味わって、衝撃のドールの由縁を」


 最高まで高めた振動を衝撃破に変えて、空中で次々と放つフィフス。

 無数の衝撃波が王に向って打ち出された。

 マシンウォリアが王の頭上に飛び衝撃波を自ら受けた。

 空中でフィフスの衝撃波により、次々と弾かれるウォリア。


「なぜ、空中に止まっていられる!?」

 疑問を漏らした王の頭上、空中で美しい踊りを舞い続けるフィフス。


 残りマシンウォリアも攻撃を開始した、赤い色の熱線と衝撃波が交差する。


 絶え間なく衝撃波が打ち出すフィフスの両腕のリングは、敵を破壊するだけではなく、自分を空中に止めるための衝撃波も生み出していた。


 衝撃破を作り出す時はフィフスのリングは超伝導で浮いており、フィフスの腕には接触していない。

 ウォリアを一撃で破壊する強烈な衝撃波の反動を、その身に受けずに済んでいる。


 そして空中に身体を浮かせる時は、リングを腕に密着させ衝撃波を打つ、その反動を身体に受けて空中に飛び上がるのだ。


 リングの接触モードは強い衝撃は使えない、反動でフィフスの腕はもぎ取られてしまう。フィフスは、超伝導の回路を瞬時に調節し、密着、非接触モードを使い分けている、そして衝撃波の威力も同様に調整していた。


 人間を遙かに越える優勢遺伝子による神経速度と肉体が実現している、超科学の生んだ美しき兵器は、空中でさらに舞い続ける。

 それは完璧で人間を遙かに超越していた。


「見事じゃ……衝撃を操るドール」

 思わず賞賛を与えた王。エイトはそれだけの戦果と美しさをその場に残した。

 フィフスは王の賞賛の言葉が終わると同時に、地上に降り立つ。

 広大な王の謁見の間には、マシンウォリアの残骸が散らばっていた。


 しかし王が座る玉座の回り半径二メートルだけは、破片一つ落ちていなかった。

 フィフスは空中で舞いながら、ウォリアを破壊し自分の位置を空中に止め、なおかつ破片が王の側に及だ時には、それを衝撃破で弾き飛ばしていた。


 完璧なフィフスの優雅な動きと正確な攻撃に王は見とれ感歎したのだ。


「まこと素晴らしい。さすがだなフィフス。この国を反乱軍から守り通した強者」

 膝を落して、王の前にひざまづくフィフス。


 その呼吸は少し乱れ、褐色の胸は早い収縮を繰り返す。

「お褒めの言葉。恐悦至極ですエール王」

「既に我の負けは決まったようだな。おまえが居るかぎり勝てる気がしないぞ。フフ……一つ聞きたい、空中で衝撃波を使い移動出来るとはいえ、ウォリアのブラスタガンの攻撃を全て回避出来るとは思えない、こっちの攻撃が効かなかったのはなぜじゃ?」


 王の言葉に顔を上げて立ち上がったフィフスは、ゆっくりと自分を一回転して見せる。

「効いていなかったわけではありません」

 フィフスの身体には、ブラスタガンにより焼かれた火傷が多く見られた。

「ほう、マシンウォリアの攻撃はそちに届いたわけだな。それならばそんな火傷で済むはずがない」


「それは王の才覚が邪魔をしたんですよ」

 王座に近づくシルバが答えた。


「我の才覚だと? シルバ、この後に及んで愚弄する気か!? 負けを認めた我に」


「フフ、駄目だとは言ってませんよ。人を統治する者は寛大であり貪欲です。反乱軍を数万単位で殺したり、国民を無実の罪で牢獄に入れても、夕食のディナーで出る、血が滴るステーキを美味しそうに食べる。しかし、自分が大切にしているペットが死んだり、太古の花瓶が割れただけで、食事をとることが出来ないくらい動揺する……この数百年もの歴史を持つ、美しい宮殿を破壊したくなかった王、あなたは被害を最小限に抑えたかった」


「あたりまえだ、人などいくらでも代りがきくが、星や歴史的な建造物は壊してしまえば元には戻らない」


 王がシルバの言葉に反意を込めて答える。

「ええ、そうですね。もてる者のそれが論理。人の命などより貴重なアイテムが沢山存在する、あなた達には。さて、王の疑問に答えましょう。私が形見だと渡したネックレスをご記憶ですか。誕生日とか片見とか理由は嘘ですが、その辺は王もお分かりだったのでしょう。絶対的な有利な状態では、もてる者の慈悲という余裕を、民に見せなければならない。おかげで危機一髪で私はフィフスに、盾を与える事が出来た」


 フィフスは自分の胸元に揺れる、金色の豪華な装飾のネックレスを手で持ち王に見せた、大きな紫色の宝石が中央に収まっている。


「これがね王様マスグラビデフォース。妹セブンスの超破壊兵器、セブンスドールにも使われた。ヒッグス粒子を機体の周りに展開して、攻撃を受けた場合にヒッグス粒子の濃度を上げて重さを∞(無限大)まで増加させて攻撃は運動量がゼロになり力を失ってしまうの。自分の攻撃時は、ヒッグス粒子の濃度を薄くして、抵抗を無くすから、衝撃波を放つ、近接戦闘を行う場合でも、シールドを展開したままにできるの」


 フィフスの言葉に、胸のネックレスを見直す王。

「スグラビデフォースか……そこまで小型化出来ていたとは。最高の矛と盾を持つフィフス。最初から勝敗はついていたのだな」


 王の敗北宣言。しかしシルバは首を振る。

「いえ、だから王の、持てる者の才覚だと言ったのです。セブンスドールは八百もの大型ブラスタ砲の攻撃を、エイトの銀河一の攻撃にも耐えました。しかしそれはマイクロブラックホールエンジンの高出力のおかげ。今、フィフスが持つ重力の盾にはそんな力はありません。王が最初からこの貴重な宮殿を破壊しても良い、と思っておいでになれば……」


「フフ、反乱軍が星一つを大事に思った為にフィフスを倒せず、大きな被害を受けた、それと同じ愚行を我も犯したわけだ」


 王の自虐的な言葉に、慇懃に礼をしたシルバ。

「はい、おかげで私はこうして王に、今日の演目の終わりを告げる事が出来ました……さあ、あなた達の時代は終わりだ、速やかに舞台から退場して頂こう」

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