第53話 A.D.4020.衝撃のドール

「なるほど、人間を越える神経速度と筋力。それにとても親思いだ。シルバに被害を与えないように距離を取った……だが」


 巨大な王の部屋の入り口の扉の前に立ち、金の装飾がされたノブを開こうとするフィフス。


「この部屋はロックされている。出る事は叶わないな。我の許し無しでは何者も……フィフス、おまえでも!」


 40の赤いレーザーサイトが、フィフスの身体の全てを紅に染める。

 開かない扉、諦めたフィフスが王を振り向く。


「撃て!」


 間髪を置かずに王の命令が下された。

 部屋の中を高収縮されたエネルギーの束が、扉に向って部屋を横切った。


 王宮の破壊を最低限にするために、出力を調整されたブラスタ砲。

 それでもフィフスを消滅させるには十分な威力。

 部屋の中を一陣の風が強く吹いた。


 部屋の空気が四十のブラスタ砲によ、急速に暖められた為に、空気の移動が起った。強い風が王とシルバの視界を無くす、しかし、機械であるマシンウォリアにはその姿がハッキリと認識出来ていた。


 王がつむじ風から目を開けたとき、褐色の肌、Vカットのワンピース、その短い丈から、ムッチリと伸びた脚を一歩進めたフィフスが近づく姿が見えた。


「なぜじゃ、なぜ消滅しない?」


 ゆっくりと王に近づくフィフスは、その猫のようなつり目から、強い視線を向ける。フィフスの目力に王は二度目の攻撃命令を一瞬、遅らせる……その時、王の前に立つマシンウォリアの一機が振動を始めた。


 マシンウォリアの周りの空気が渦巻き、金属製の両手両足を広げて一トンを越す戦闘マシンが、数メートルも浮きあがる。

 続いて金属が砕かれる音の後に炸裂音、空中に浮いたマシンウォリアは、中から体液が噴出し床にそのまま落下した。


 目の前で何が起ったか理解出来ない王に、静かに近づくフィフス。


「私は最凶のドールと呼ばれる。でもナンバーズドールには正式な二つ名があるわ。私の二つ名は”衝撃を操るドール”意味をこれからを王様に教えてさしあげる」


「……何の手品だ?」

 王は触れる事も無く、マシンウォリアを破壊したフィフスを見た。

 まだその目に恐怖は無い、絶対的な戦力の有利は変わっていない。


「種明かししようか。よく見てわたしの手首」

 王座の方向へ差し出したしなやかなフィフスの両腕、その手首には複雑に絡み合った金色のリングが巻かれていた。


「このリングの中を小さいけど、巨大な質量を持つ重粒子ボールが高速で廻っているの」

 フィフスが右手返し甲を王へとかざした。

「その振動を集めて前方へ解き放つ! こんなふうに!」

 瞬間、王の横の一機のウォリアが振動し砕けた。


「ほう面白い。ただタネを見せては興ざめだな」

 王は広大な部屋に集う、マシンウォリアに指令を与える。


「前方に陣を造りフィフスの衝撃波から我を守れ。同時にフィフスを攻撃。エネルギーゲージは最小限。この由緒正しい王宮は破壊するな!」


 38機のウォリアが一斉に動き出し、王を守る強固な陣を敷き、そのレーザーサイトをフィフスに向けた。しかし、王の言葉で動いたのはウォリアだけでは無かった。


 空中に飛び上がった褐色のドールは王の真上に浮かんだ。

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