第52話 A.D.4020.出来の悪い娘

 王の言葉に何の事かわからないとシルバが答えた。


「フィフスですか。これは出来の悪い娘で兵器ではありませんよ。確かに一対の超兵器を持っていれば戦力にはなりますが」


 シルバの言葉を聞いたフィフスが文句を言った。

「ええ!? 出来が悪いって私が? それはエイトやセブンスの事でしょう?」


 シルバは笑いフィフスへ向く。

「こういう時に人間はへりくだって、身内を悪く言うものだ。それが人間の美徳というもの」


 不思議そうな顔でシルバを見たフィフス。

「変なの。ただ良いって言えばいいじゃない……へんへん。絶対へん!」

「ああ、そうだな。おまえ達は我々、人間とは比較にならないよ。優れた者で世界を継ぐ。ついでに……良い娘だよ」


 シルバはマシンウォリアの守られた王を見て、諭すように話し始める。


「王よ。巨大な帝国が滅びる理由は資源の浪費。そして起る一部者どもの独占的な支配。十分悦楽を楽しんだのに長生きもした、しかし支配階級とはなんとも強欲。王を中心に貴族と上流階級が小さな円を描く。その周りに王に近い者順で円がだんだん大きく描かれていく。巨大な帝国の円の一番外側の帝国を守る盾は、陵辱された他国の奴隷達がその任にあたる。つまり帝国を守る兵士の殆どは、王に力で従わされているだけの者」


 王は近づいてくる解放軍の艦隊を、ディスプレイで見ていて気が焦る。


「シルバ! そちは、そんなつまらぬ歴史の話で、我の脱出を遅らせて、あの艦隊をここに届かせるつまりなのか!」

「いえいえ、そんなつもりはありませんって。ちゃんと脱出できる時間は差し上げますよ」

「シルバ、立場が分かってないようだな……ならば分かりやすく、ハッキリさせてやる」


 王の部屋の空気が変わった、赤いレーザーサイトがシルバとフィフスの全身を照らす。その数は40、瞬時にすべてのマシンウォリアはブラスタ砲を構えた。

「やれやれ……わたしはちゃんと逃げる時間を与えると言っているのに……仕方ないですな」


 シルバは王に向って両手を挙げた。

「降参です、私は好きにしてください。ただフィフス、娘は助けて頂けませんか?」

 無言の王へ言葉を続けるシルバ。

「あと私の形見をフィフスに渡したいのですが」

 塵さえ残さずシルバとフィフスを、蒸発させる戦力を従えた王は、無言のままでその行為を認めた。


「では……フィフス、これはおまえの誕生日プレゼントだ」


 フィフスに近づき、その首にネックレスをかけるシルバ。


「え~~? 誕生日って随分先……あ、これか……完成したのね」


 ネックレスの先に付いた。大きな紫色の宝石に触れたフィフスは、速やかにシルバの意図を理解した。


 シルバが頷きフィフスから離れたと同時に、発せられた王の命令。

「フィフスを狙え、今すぐ完全に消滅させろ! あれこそ銀河で一番凶悪な兵器!」


 王の命令で40機のマシンウォリアが、ブラスタ砲をフィフスに向けた。


「シルバ、おまえは人類のドール化計画に必要だ。まだ生かしておいてやる」


 王の言葉が終わった直後に人間には察知できない速度で、一気に走り出したフィフス。シルバから距離を取っていた。

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