第51話 A.D.4020.最凶のドール

カメラのランプが青に変わった。

王の言葉が終わった後、銀河帝国の歴史などを放送する予定だった。

エール十四世は玉座に座り、一心地つく。


「無知な者どもへの言葉をかけるのも大変じゃな」

 王の言葉にシルバは、玉座を見上げた。


「無知な者どもですか?」

 シルバの問いが意外なのものだったので、自慢の顎髭を触りながら笑みが溢れる王。


「人類の中で生き延びて良いのは、ほんの一握りであろう? 今更、その事を聞くかシルバ。ドール移行計画は発せられたのじゃ」


 王の言葉を聞いてシルバは真っ直ぐに部屋を歩いていく。

 部屋の扉から入ってすぐの場所に立つフィフスの横で立ち止まった。

 シルバがフィフスの後ろの壁に手を押しつけると、壁にコントロールパネルが浮き出てくる。

 パネルを操作し、何かを確認したシルバは気にしている王に答える。


「大丈夫です。現在は録画の映像を放送中です。無知なる者は未来への夢を見ているでしょう」


「そうか。事が国民に聞かれたら支障があるからな」

 万が一を心配して、安心した王は先ほどの話を続ける。


「人により真実は違うものだ。人類にとってドール化計画は救いになる。我と上級貴族にはな」

 仕方が無い事と言う王に、聞こえない呟きを発するシルバ。


「まるで私に贖罪を求めているようだ。300億を殺すのはやはり気が咎めるか」


 壁から離れ、玉座へ自身の向きを変えたシルバは深々と頭を下げた。

「さすが我が王。全てに思慮深く、人類を救う為に犠牲を覚悟されている。シルバは、ご命令に忠実に従うまです。さあ、銀河で最大、最後の艦隊戦が始まります」


 ディスプレイの映像が切り替わり、帝国軍と反乱軍の艦隊が対峙したまま、徐々に接近していく。赤い色に塗られたミネルバ帝国は力を象徴、青い色で塗られたアウローラは自由を主張する。


 相反する主義の二つの軍は既に戦闘領域で、お互いの主砲が届く距離に入りながらさらに距離を縮めている。


しかし……国王は大きな疑問を持った。

「戦が行われない。なぜじゃシルバ?」


 王の言葉を聞いたシルバは慇懃に礼をした。

「劇の中盤は終わったからですよ。そろそろ私との禅問答にも飽きてきてでしょうから、ビジュアルでお見せしましょう」


 シルバが目で合図を送ると、フィフスがタッチパネルを操作した。

 王宮のメインスクリーンに、真実の宇宙の戦場が映された時、驚嘆するエール王。


「これは……反乱軍のみしか映っていない。我が軍はどうなったのだ!?」


 嬉しそうな表情になったシルバが答える。

「王の驚きを頂きました。脚本家として嬉しいです。元々、戦闘などなかったのです、帝国は艦隊は動かしておりません。解放軍一斉蜂起の事実も、伝えてはいません。さて、少しカメラの位置を動かしてみましょう」


 切り替わったディスプレイには、王がいる首都星が映っていた。


「さあご覧下さい。解放軍が粛々とこの星へ進軍する情景を。数時間で王都は焼け落ち、歴代皇帝の最後を飾る、エール十四世はお亡くなりなる」


 シルバには何の感情も無かったが、王は冷静を欠いた。

「反乱軍を黙ってここまで通したじゃと!? 貴様!」


 シルバが表情を変えずに、激昂する王に質問した。

「ローマ帝国をご存じですか? 人類が消滅させた地球に栄えた古代の帝国……その帝国が滅んだ理由、誰が王に剣を向けたか?」


「ローマ帝国じゃと……地球? 数千年前の極小の帝国と我が銀河帝国と比較するのか? 規模も技術も何もかもが違うものを」


「いえいえ、そんなに人は変わっていないのです。ローマ帝国だけではなく、その後現れた帝国は全て同じ理由により、同じ者により滅ぼされています」


 話している間にもディスプレイでは、解放軍の艦隊は進行している。


 不安が恐怖に変わりつつある王を見たシルバ。

「ローマの王を倒したものは、ローマ軍ですよ。理由は腐敗。自分を守る軍すら掌握出来ず、自分の運命と命さえ他人にゆだねる支配者。内部の裏切りによって時代は動いてきました。おや汗が……どうやら、王にも恐怖を味わって頂けているようで。心配せずとも終幕まで二時間は掛かります。逃げ出すには十分な時間が残されていますよ」


 良く調整された空調下で、汗が流れるのを押さえられないエール十四世。

「我が逃げると? この首都星から、王宮から逃げろと申すか!?」


「王、今から軍を集めたとしても、準備もままならない、敵は士気も高く準備万端。我が方にまず勝ち目はないと思いますが?」


 王は思わず玉座から立ち上がり、シルバのいる広間の入り口を睨む。


 光学迷彩で姿を消していた。

 紅白の縦のストライプの服を着た王宮騎士が姿を現したている、王の護衛用のマシンウォリア。

 シルバが自宅に持っていたものと同型のものだが、性能と価格は破格だった。

 金銀で装飾された美しい外見と、強大な破壊装備を有している。

 マシンは王の後ろに20機、前方に左右に展開しながら20機、合計40機は王を中心に展開する。


 厚く長く引かれた絨毯が続く入り口に向って、王はシルバを睨み付ける。


「おっと。怖い顔をしないでください王。ご覧のように私はなんの力も持っておりません。少し大げさかと思いますが」


 シルバの牽制の言葉に首を振る王。

「そちの最高の武器は先ほどから控えておる。最凶のドール。フィフスがな」


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