第50話 A.D.4020.永遠の王国

「つまりね光速を超えなくても、宇宙船はこの銀河から脱出出来る」

 紙の右端から、左端へと右手を滑らせる。


「宇宙船の中では時間ゆっくり流れるから、搭乗した者は数十年くらいに感じたら…実世界では20万年以上が経ち、宇宙船を送り出した事の意味さえなくなるわけね」


 厚めの白い紙を両手で持ち直したフィフスが軽く力を込めた。

「だからね、折ることにしたの。こうやって……えい!」


 紙を小さく折りたたみ始めたフィフス。

 20cmの正方形の紙が四回折られ、5cmの紙になった。


「空間を折りたたみ距離を縮める。人類は数万光年移動出来るようになった。それが恒星間飛行。現在の宇宙船は光の速度より全然遅い速度で飛んでる。それは宇宙船と外の時間との差を減らす為。誰でも、帰ってきたら知り合いがみんな死んでたら嫌でしょ? だから安全により遠くへ行くためには、この紙をさらに小さく、もっと多く折らなければならなくなったわけ。でも、空間を折る回数も限界があった」


 四回折った紙をさらに折ろうとして、分厚くなり弾力と堅さを持った紙を折れなくなる。


「見ての通り、こんな紙でも折る度に固くなり、次に折る為のエネルギーは膨大になっちゃうのよね」


 折るの止めて、小さくなった紙を右手でカメラに写すフィフス。

「これが限界だったわけ。人類に折れた空間はこれで終わり……でもね」


 右手で力を込めたフィフス手の中で、今度は簡単に紙は折られた。


「ドールは次を折れる。銀河中の資源の浪費を発展と称して行い、五千億人まで増えたけど、次の空間を折れなかった、あなた達人間は黄昏を迎えたから、この世界は、私たちドールが継いであげる事にしたの」


 フィフスの「ドールが人類を跡継く」という言葉を聞いて、銀河の国王であるエール14世が玉座を立った。

 カメラが国王を写し、この日初めて言葉を口にするエール14世。

「人類は自らを高見へと移す事になる。人間を越えるドールへと人を移行する」


 王の言葉は黄昏を迎えた生き残り、300億の民に大きな驚きと動揺を与えた。

 それまで優れた身体能力と計算能力を持っていても「物」としてしか見ていなかったドールへ人類を移行するする……王は続けた。


「ドールを大量生産し、公平に魂を移していく。痛みは無い。眠りにつき目覚めたら、人間を遙かに越える力を手にしている。古くなったら身体は交換すれば良い。これから死ぬ者はいなくなり、激減していた人類はまた黄金期を迎えられるのだ!」


 国王の力強く自信に溢れる断言、それを聞いた300億の民は歓声をあげた。


 完全にお行き詰まり、全ての資源が枯渇し、技術は退化して心まで疲労した、西暦4000年に解決を見たと皆が思った。


 民の歓声に右手を天に捧げ答える国王、誰にも聞こえないように呟く。

「公平にか……王族と貴族だけが対象だがな」


 人類が急速に人口を減らしたのは、資源の枯渇が一番の問題だった。

 永遠の王国を築く為には、300億でも多すぎる

 あまり少ない個体では種族を維持できないが、ドールの永遠の身体を手に入れれば、人数はかなり絞れる。

 一万人の高貴な優れた人類だけで、エターナルキングダム(永遠の王国)を創造する……それが国王の本当の計画だった。


「それまでは平民にはドールの生産、ソウルの移行を高い意欲で奉仕してもらわないと困るからな……クク」


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