第49話 A.D.4020.王が抱いた不安

あいつ……大丈夫か?


国王は目の前でおそよ国営放送と程遠い、テンションのフィフスを見ていた。。


「フィフスの、あのような立ち振る舞いは、初めて見るな」


 赤い絨毯が敷き詰められた階段の先の、この部屋で一番高い場所に悠然と座る男が、一段低い位置に立つ初老の男に呟く。


「今日は特別な日ですので……エール王」


 王と呼ばれた男は、今は稀少となった昆虫が出す糸で作られた、シルクという布地に、消滅した地球の金属である、黄金で飾り立てられた服を着て、頭上にはさらに大量の金と、四方に輝きを放つ巨大な鉱物、地球産の宝石を幾つも鏤めた王冠を頂く。


「特別な日……本当に全ての争いが終わるなら、少しくらい茶番もいいだろうが……しかし」


 ミネルバの王であるエール十四世の疑惑のある言葉に、初老の男が答える。

「その通りです。本日で全ての争いごとは無くなります、反乱軍はその力を全て失うでしょう」


 白き衣と黄金と宝石に身を包んだ、銀河の王は自分の長く伸びた顎髭を触りながら、感情込めずに頷いた。

「ふむ。銀河一のドールマスタである、シルバ卿が言うなら本当だろ」


 目の前で暴走気味の娘のフィフスを見ながら、セブンスの生みの親でもあるシルバが玉座のエール王を見上げた。


「そのお言葉、痛み入ります」


 一度納得したエール王だが、感じている疑惑を晴らそうと再度試みる。

「反乱軍を一掃する方法については、全てはそちに任せたが……反乱軍といえ、宇宙艦隊八千隻、兵士二百万、ヘルダイバも新型をメインに二千機……今日一日で一掃できるとは思えないが……そちの良策を少しは聞かせてもらいたいものだな」


「ふふ」

 笑うシルバに、王が尋ねる。

「何がおかしいのじゃ?」

「300億の民の上に2万光年の空間を治める、人類の頂点であるエール王が不安を感じるとは」


「それは可笑しい事なのか?」

「いえ、それが王の器で資質でありましょう。ほんの小さな傷が巨人を死に追いやる。ただ……」


「ただ、なんだ?」

「一興を楽しむのも王の器かと。寸劇は既に始まりました。そのストーリーを今ここで語るのはいささか無粋かと」


 王の器を問われたエール王は、頷くしか無かった。


「……確かにそちの言う通りかもな。舞台を楽しもう。だがシルバ、おまえの演出が良くなかった場合は……分かっておるな」


 シルバは慇懃に右手を引き、頭を下げた。

「その時はわたくしの首をお取りください。王の軍隊は宇宙艦隊二十万、兵士は五千万、ヘルダイバ二万機。そして……」


 恫喝し、恭順を示したシルバの右手が褐色のドールへを指していた。

 その姿にエール王は、不安は消えて自慢の髭に手をやった。


「分かっておる。シルバ卿。そちの作ったドールズが居ると言いたいのだろ?」


 再び、慇懃に頭を下げたシルバが顔を歪めながら答える。

「はい、微力なれど、王のために娘達は戦っております」


 全盛期には五千億を越えていた人類は、シロアリのように銀河の星系の資源を食いつぶし続け、ついには食らうものが無くなり、300億まで減少した。


 無限の未来を無くした今、君臨するする王の意味は、滅びを見守る役として寸劇の端役を与えられた男。


 王に悟られないように呟くシルバ。

「滅びを迎える人類の劇にはクロム。おまえはこの放送を見てるか。クク」


 王がシルバが何か話した事に気づくが、抜群のスタイルの真っ赤な唇が疑問覆い隠す。

「みんなはジャンプの理論って知ってる? 自身の速度が早ければ目的地に着く時間は短くて済む。つまり早い乗り物は同じ時間でより遠くへ行けるわけ。でもね、宇宙船はそうはいかないの。速度が速ければ速いほど、宇宙船の内部時間が遅くなり、実世界との宇宙船の時間の差が広がり、逆に実用性が無くなる……ちょっと難しいかぁ」


 一枚の白い紙を取り出したフィフス。それは一片20cmの厚みのあるもの。

 紙を銀河に見立てて、胸の前に広げる。

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