帝国の動乱

人類救済計画

第48話 A.D.4020.帝国創生記念日

家の大型ディスプレイを点けた、銀河の人々が驚いていた。


今日は銀河を治める、ミネルバ帝国の創世記念日。

帝国の首都星で絶対の王であるエール十四世が住む惑星ルウツから、恒星間通信で銀河中に、お言葉が発せられる……筈だった。


 ここは中規模の植民地星。

 そこに住む、七歳の男の子は母親から言われ、大型ディスプレイを点灯させた。

 ミネルバ帝国に住む人々はいつも監視されている。


 家庭のディスプレイにも当然、監視システムは入っている。

 帝国の記念日の王の言葉を聞かないなど、当然許される事はない。

 本当にささやかなで貧しいけど、家族が一緒に居られる、そんな喜びさえ奪われかねない。


「お願い早く、王様の放送を点けて!」


 朝の食事の支度が遅れて、帝国の放送時間が迫った母親が、居間の薄汚れた人工布の長椅子に寝ている父親ではなく、七歳の子供に叱るように、強い口調で放送を映すように頼んだのは、監視と罰からの焦りだった。


 いつもは大きな声を出す事が無い母親の、急を告げる声に驚きながらも、男の子はチャンネルを切り替えてギリギリ、ミネルバ帝国創世記念日の放送開始に間に合った。


 一安心した母親が男の子に向かい安堵の声を出す。

「間に合ったみたいね。よかった……え、ええ!?」


 壁のディスプレイを見た母親は言葉が止まった。

 いつもなら、厳格で整然とした王宮からの放送だった。

 しかし今日は、一人の女の真っ赤な唇のアップから始まったからだ。


「はい~みなさん! 元気してた? わたしは今とっても愉快で、興奮状態してま~す!」


 画面に映るのは褐色の肌の女で、母親から見ても、色気が滲み出る服装とスタイル。大きな胸はVカットのワンピースからはみ出しそうで、短い丈からムッチリと伸びた脚は、目のやり場に困った。


 母親のただならぬ雰囲気で起きた父親と、男の子は目を点にして画面を見ている。

 ささやかな家族を含む銀河の300億人が見守る前で、妖艶な女の言葉は続く。ハイテンションで。


「じゃあそろそろ時間みたいだからさあ~~創世記念日の放送を始めちゃうわ。え? なんで、そんなテンションなんだって? そりゃ、こんな古くさくて、忠誠心を示す為に、嫌々見る放送の司会なんて、やりたくないからねぇ。仕方ないから流行のドラックをきめて……あ、ウソウソ、少しだけだよ。まあ、人間なら致死量だけどねぇ。私はドールだから大丈夫! この死にそうで生きてる感じがクールなの」


 自分をドールだと言った女を撮っているカメラが引かれ、女が居る部屋の様子を映し出すと、銀河帝国ミネルバの首都星ルウツの王の部屋が映っていた。


「みなさん安心したか~~な? もし創世記念日の放送見ないで、お色気番組見てたらそく刑務所行き! アハハ。これで一安心だね。この番組は帝国がお送りする創世記念日すよ! しかも特別編だ~~! ついにこの銀河が完全に統一されるのだ! だ・か・ら・反乱軍のいい子達はヨックヨック見てね~~!」


 銀河の人々が、ポカーンと口を開けたまま超ハイテンションな艶っぽい女を見ていた。視線を感じるのか、気をよくした女は何かを思い出したようだ。


「あ、そういえば自己紹介してなかったかな? 反乱軍の人と軍関係者の方はおひさしぶり~! おい! ここでカメラはわたしをアップだよ!」


 カメラのフォーカスを指定した女の褐色の肌は、見ているだけで吸い込まれるような妖艶なボディ。

 誇らしげに自分のスタイルを見せた女は、金色の瞳で誘うような視線を銀河中へ送る。


「ミネルバ特務反乱軍の鎮圧部隊隊長。五人目で最高にクールなドール。私がフィフスだ……よろしくね!」

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