第45話 A,D4020.重力を操るドール

 進む道を次々と攻撃衛星が塞ぎ、その度に光速移動を止め、実体を表し破壊するセブンスドール。


「……五つめ」

 八百の攻撃衛星による一斉射撃が、五回行われた時に数を呟くエイト。


 数える数が増える度に笑みを浮かべるエイト。

 それとは反対に、搭乗している他のドール達は冷静を無くしていた。


「エイト! 衛星を障害物として置き、セブンスの光速移動を止め、そこへ全衛星をリンクして、ブラスタ砲の最大パワーで一斉射撃を行う……正しい作戦です。計算上、エイトドールの一斉射撃、耐えられる装甲などありません。例えエネルギーシールドを展開しててもです。なのに……なぜ、セブンスドールにまったく、ダメージを与えられないのでしょうか。もう、五回目です。五度のエイトドールの一斉射撃に耐えている……セブンスは、人知を越えた者なのでしょうか?」


 部下の問いには答えず、エイトは優雅にフーガを弾き続ける。

 操られた衛星は踊り攻撃を繰り返す……また宇宙が光った。


「これで……六つね、フフ」


 数を呟くエイトの優雅な指先が、セブンスドールに対して最大の防御を展開。

 百機を越す衛星が、防御のフォーメーションをとる。

 実体化するセブンスドールは両手で、次元刀を真っ直ぐに構え、光速で回転を始める。

 紅き光の渦が大きくなり、周りを囲みつつある攻撃衛星を、重力の渦に巻き込む。


宇宙が揺れる……紅き重力の竜巻が全てを包み込み、衛星を一つ一つ砕いていく。


 セブンスドールが回転を止め、剣を振り払った時に百機の衛星は全て砕かれ、異次元へと転送された。


 エイトの最大防御を打ち破ったセブンスの目には、煌々と光を発する、全長2KMの巨大な要塞“エイトドール”が映った。


 視界が開け、前に出ようとしたセブンスに、七百の衛星からの一斉射撃が行われ、再び光の渦に覆われる紅の機体。光に焼かれた数秒後、再び重力の炎を発して姿を現すセブンスドール。


 エイトが突然、演奏を止めた。

 他のドール達は、完全にパニックになっている。


「もう、七度の攻撃です。何故消滅しない? セブンスドールの装甲はヘルダイバと同じ、いやそれ以下。解らない……恐ろしい。理解できない事が」


 動揺する百名を越すドールざわめき、聞えていないようなエイトは静かに立ち上がり、再び数を口にする。

「七つ……これで七つ目ね」


「邪魔はこれで終わり?……エイト」

 前方の巨大要塞に、エイトを感じて次元刀を構えたまま、光速移動で一瞬でエイトドールのコントロール室前へ飛ぶセブンス。

 透明な防御壁からエイトが、こちらを見ているシルエット。


「エイトどうする? 覚悟は決まった?」

 メインコンソールに写った、セブンスを見てエイトが微笑む。

「セブンスドールその無敵の攻撃力と防御力。一見、神の力にも見える……でも、私は知っているの。その力の秘密をね」


 エイトは光で透き通る、その手を目の前に翳しながら話し始めた。


「宇宙は初期の状態で、素粒子は自由に動きまわることができ、質量がなかった」

 壁際に立ち、セブンスにも見えるように自分の姿を見せるエイト。


「自発的対称性の破れが生じ、真空に相転移が起こる。真空にヒッグス場の真空期待値が生じ素粒子がそれに当たって、抵抗を受けることになった。そして素粒子の動きにくさ、すなわち質量となる。つまり重量とは、プールの中に物質が沈んでいるように粒子の抵抗を受けて重さとなる」


 右手をセブンスの方向に向けた、エイトの指先が紅の機体を示す。


「プールの水”ヒッグス粒子”の濃度を、自由にコントロールする。それが重力シールド、マスグラビデフォース“無敵のシールド”の正体」


 エイトはメインスクリーンのセブンスドールを見つめる。


「セブンスドールはブラックホール・エンジンの驚異的なパワーにより”重力を感じさせる”ヒッグス粒子を、機体の周りに展開している。マスグラビデフォースの優れている点は、自分の攻撃を阻害しない点」


 エイトはまるでセブンスに説明するように言葉を続ける。


「外部からの攻撃エネルギーやミサイルや剣などは、全てヒッグス粒子の抵抗力で、重さが∞(無限大)まで増加する。無限大まで増加した重量により、敵の全ての攻撃は運動量がゼロになり、力を失ってしまう」


 聞き入るセブンスにエイトは説明を続ける。


「自分の攻撃時は瞬時に粒子の濃度を薄くして、抵抗を無くしている。剣を振るなど近接戦闘を行う場合でも、シールドを展開したままにできる」


 エイトの話を黙って聞いているセブンス、クスッと笑ってエイトが続ける。


「セブンスドールは神ではなく”人間”が造ったのよ……そう、私達の父親”シルバ”がね。私には”セブンスドールが何であるか”は知らされている……そして、その機体のメカニズムもね」


 エイトが操作盤に右手を伸ばすと、同時にセブンスが制御パットに戦いの意志を伝えた。


「さて……ここからが問題なのだけど……マスグラビデフォースも物質であるならば、そこに強力なエネルギーを送り込むとどうなるか? 粒子は限界まで濃度が濃くなり壊れる。まあ、エイトドールの攻撃力で起こる現象なんだけどね」


 セブンスドールの周りに漂う輝く光の欠片、エイトの理論を証明するマスグラビデフォースの残骸。

「そしてセブンスドールの名のとおり、マスグラビデフォースは七枚展開出来ると聞いてる。私が数えた破壊された数は七枚。さて、次の私の攻撃にセブンスドールは、耐えられる……のかな」


 瞳を大きく開き、セブンスを見つめるエイトの口元が僅かに緩む。

 光り出すエイトドール、次元刀を構えるセブンスドール。

 二人の細く長い指が微かに動きだした。

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