第43話 A.D.4020.セブンスドール発現

「この力は……なんだ。何が起ころうとしている?」

 クロムがセンサーを確認すると、驚きべき値を表示していた。

「重力が発生している!? しかもこれは木星レベルの巨大惑星クラス」


 宇宙に巨大な重力の嵐が吹き荒れる。

 激しく揺れるクロムのヘルダイバ。

 鈴々の機体をギュッと抱きしめてそれに耐える。


 数十秒間の激しい宇宙の嵐は突然止んだ。


……瞬間、まるで逆回しのVTRの様に、砕けた粉々の欠片が一点に集まり始める。


 漆黒の球体を中心にキラキラと瞬く欠片は、その形を再び銀河に再現する。

 真紅の機体セブンスドールが再びその姿を現した。


”セブンスドール”マイクロ・ブラックホール・エンジンを搭載する銀河唯一のヘルダイバ。他のヘルダイバと違い、装甲を持たない非常に美しい姿を持つスマートな機体。人間が造ったものでは唯一“重力”でボディ結合している。


 重力結合は本来は惑星レベルの質量がないとできないが、再構築された時に新たに起動されたブラックホールエンジンの超重力により実現していた。

 目的、性能、全てが未知なマシン。


「重力による機体の再結合を完了しました。エンジン状態グリーン。ラバーズはFタイプに換装完了。コントロールが復帰しました。セブンス、いつでもどうぞ」


 真っ赤なジャンプスーツに着替えた、ラバーズFタイプ(ファルコン)セブンスドール専用のOSが可憐な姿で、全システムの正常起動を伝えた。


「了解ファルコン。あと3分で脳へのマニュアルインプットが終わる」

 ファルコンに答えたセブンスの姿は、銀河一の美しきドールの戻り、瞳は紅く輝き落ち着きと自信に溢れていた。


 再生したセブンスドールは後付けされた移動用の機動ブラスタ、武器、盾、など全てが外れていた。


 装飾を持たない、デザインは女神の彫刻ように、硬質な美しい姿を見せた。


「やっと本当の姿を見せたわね。セブンスドール」


 巨大な浮遊要塞のコントロール室から、セブンスドールを見たエイト。

 エイトの細い指が攻撃衛星の制御パネルに触れた。


「準備はいいのかなセブンス姉さん。試させてもらうわよ」

 セブンスドールと対峙していた攻撃衛星が再び光に包まれる。

 セブンスが目を開けてコンソールを見た、瞬間にブラスタ砲がフルパワーで、一斉に撃ち出された。


 光の束が、セブンスドールを直撃。

 しかし光の束は、セブンスドールに着弾する直前に止まり力を失う。


「ビームが届かなった。エネルギーシールドを展開した? だが反射しなかった。それに機体の周りに見える……あれはなんだ?」

 ブラスタ砲を途中で消し去った、セブンスドールに驚き、見つめるクロムに、湾曲した光の球体が薄く機体を包んでいるように見えた。


 セブンスの目の前、円形のメーターが幾つも現れ大量の情報を表示していく。

 脳に直接インプットされた、セブンスドールの操作方法が溢れ出す。

 両手を前に出しコンソールに触れると、セブンスの手の形に合わせて、光の制御パットが現れた。


 パットに“戦いの意志”を伝えるセブンス。


「宇宙に希望を見せる力を与えて!」


 セブンスドールの姿が揺らめき、光の軌道を描き一瞬で攻撃衛星の前に出る。

 その速さ紅い残像を宇宙に残す。

 腰に手をかけるセブンスドール。その手に剣の柄が現れ一気に引き抜く。

 黒い光の粒子が、剣の形に放出され鈍く輝く。


「ビームソード? そんな旧世代の武器は役に立たないぞ!」


 クロムがセブンスドールの武器を見て呟く。

 強力なブラスタ砲を防ぐエネルギーシールドや、ヘルダイバの装甲は、エネルギーを弾く仕様になっている。

 目の前の攻撃衛星はその両方を備えている、切り裂くにはスパイク系(実剣)でなくては無理であった。


 セブンスドールは剣を振り上げ、攻撃衛星へ真一文字に振り下ろした。

 剣の黒い光の粒子が、攻撃衛星の機体に吸い込まれていく。

 瞬時に十字に切り裂かれ、押しつぶされる攻撃衛星。


「なぜだエネルギーシールドを通過した……そんな光学兵器は見た事が無い」

 驚くクロム。その刹那、紅い残像を残し、再び光速で移動するセブンスドール。

 衛星を次々と切り裂いていく、真っ黒な粒子を放つ光剣。


 セブンスドールが移動を止めて、光の残像から実体に戻った時には、五機の衛星は十字に切り裂かれ、歪みながら収縮していく。


「……重力ね」

 エイトが呟いた。


「あれは光学兵器ではない。超重力の剣が空間ごと、敵を切り裂く”次元刀”セブンスドールは“重力を操る”ドール」


 攻撃衛星は切り裂かれ収縮し、完全に消滅した。


「次元刀で切られた物質は、超重力で押しつぶされ、異次元へ送られる。準備は出来たみたいねセブンス姉さん」


 輝くセブンスの左目が紅に光り、騎乗するセブンスドールの瞳と連なり、数十万キロ先のエイトを捕らえる。


 刀を横に払ったセブンスドールの左目が紅く瞬いた。


「この先にエイトドールに乗る、妹のエイトが待っている。さあ、ファルコン行くわよ」


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