第43話 A.D.4020.追い詰められたセブンス

 コンソールに伏せて、泣き続けるセブンスを見たラバーズが困っていた。


「あの~~どうしますか? 戦意が無ければ自爆でもしてみます? 残り54秒ですが」


 ラバーズのあまりに冷静な態度に、苛つき大きな声を出すセブンス。

「うるさい黙れ! おまえは機械だからプログラムだから、死ぬのは怖くないんでしょ!」


「ふぅ」小さくため息をついたラバーズ。

「こんなに情けないパートナーは初めてですね。私は破壊されるとフライトレコーダーに記憶を残します。再生された私はまた戦い、そして破壊されます。あなたは何百回も死んだ事はありますか? 大事なパートナーを亡くした事はありますか?」


 セブンスは顔を上げてラバーズを見た。

 ラバーズは高度な擬人化プログラム……感情が有ると言われている。

 もし感情が有るなら、自分の愛するパートナーと一緒に、何度も何度も死を感じている事になる。


 セブンスがラバーズをすがるように見た。


「ねぇ私は……私は……どうしたらいい?」

「さあ? 私に聞きます?……残り30秒です。どうしたらいいのか? そんな事は、あなたにはもう解っている筈です」


 セブンスの左目の微かな星が光を放つ。

「人形だった私に左目が教えてくれた。死に方を見つけろと。そうすれば生き方を変えられるって。助けて……ちがう……助けたいみんなを。そしてクロムに……逢いたい」


 スクリーンに写るクロムのヘルダイバに手を伸ばすセブンス。

 伸ばした指先は、固いスクリーン画面に当たるり、クロムの機体を指でなぞる。


「行くの……クロムの元へ。それは誰にも邪魔させない」


 手のひらをギュッと握り、迫ってくる攻撃衛星を睨み付ける。

 生まれて初めて、願うセブンス。


「力が欲しい。希望を頂戴! みんなを守る為に。死に方を選ぶために!」


 初めて微笑み、ラバーズが高らかに宣言する!

「セブンスのリクエストにより、セブンスドールを再起動します。重力解放後に機体を再構築。メインエンジンのブラックホール・エンジンスタート!」


 攻撃衛星に砕かれた鈴々の機体を抱く、クロムの黒きヘルダイバ。


「セブンスおまえまで同じ目に。くっそ。俺には見てるしかないのか」


 クロムは弾薬もエネルギーも切れ、目の前で行われる攻撃衛星からの攻撃で、確実にダメージを受け続ける、セブンスドールが徐々に壊れていく、美しい姿を黙って見ているしかなかった。


「鈴々からの無線も無くなった。セブンスも応答しない」

 クロムが抱える青いヘルダイバ、静かになったまま。心が焦る。


「何か方法があるはず……なに? そんなばかな!」


 セブンスドールが一瞬大きく輝き、氷が砕けるように粉々になった。

 砕かれた紅色の破片は粉末のように、漆黒の宇宙に飛散していく。

 散り散りに細かい破片になったセブンスドール。

 永久凍土に吹く氷の嵐のように、細かく広く漆黒の宇宙へと散らばっていく。


「セブンス!」

 さらさらと、流れて消えていくセブンスの姿を追い、絶望の中で名を叫ぶクロム。


「終わった。これで全てが終わったんだ……」

 クロムが顔を伏せた、その目にほんの小さな黒い点が写る。

 スクリーンに映った小さな黒い点。

 セブンスドールが消滅した地点に現れ、だんだん大きくなる。


 球体は漆黒で、何の光も色も発していなかった。

 徐々に大きくなった球体は、一定の大きさになると成長を止め、その場で回転を始める。

 

 球体の辺りが歪み始め近くの空間が揺れ始める。

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