第42話 A.D.4020.セブンスの戦い

 エイトが操る攻撃衛星が光り始めた時に声が聞こえた。


「誰も死なせない、私が守る!」


 セブンスの声が宇宙に響き紅色に光る機体セブンスドールが、クロムと鈴々を守る為に、両手を広げ攻撃衛星の前に立った。


「来たわね姉さん。それでは戦闘開始といきますか」

 エイトの開戦宣言が響き、接近した五機の攻撃衛星が瞬く。


 盾と右手のミサイルランチャーを構えるセブンス。

 貧弱な装備でセブンスのヘルダイバの操縦は初めて。

 攻撃を避ける、攻撃を当てるなど出来るわけもなく、被弾数が急激に増えていく。

 

 セブンスドールのコクーン(操縦席)には真っ赤な警告表示が、次々ポップアップし、アラートが次々と表示されていく。

 セブンスを揺らす振動。

 衛星から撃ち出される閃光に為す術がない。


「被弾率が高すぎます、回避又は防御を指示してください」

 戦闘用OSラバーズがセブンスに警告する。


「そんなの、わかっている!」

 セブンスは苛立ち不満そうに、制御パットを操作している。


「被弾率が益々上昇中です、明らかに操作の方法に問題があります」

 ラバーズがセブンスに再び警告。


「わかっているって! 私は銀河一のドール。なんでも出来るはずなの!」

 コクーンの中でどんどん増える、警告を告げる球形のポップアップは既に確認しきれない数に。


 完全にパニック状態に陥ったセブンス。


「緊急報告です。残り5分18秒で機体が破壊されます」

 冷静なラバーズと、上手く操縦できない自分に、怒りを顕わにするセブンス。


「うるさい! わかっている! そう言っているのに!」

 パニック状態のセブンスにラバーズは、ハッキリと今の状況を伝える。


「残り4分32秒です。コクーンは破壊され、後方の二機のヘルダイバも破壊されます。結果は三人とも100%死亡です」

 ラバーズの冷静な予想結果を聞いて、制御パットを投げ出すセブンス。


「わかってるわよ……でも私はナンバーズドール。こんな事は簡単に出来る。そう、出来るはずなの」

 手で顔を覆いコンソールに顔を俯して、現実から逃げ出すセブンス。


「そうよ、私のせいじゃない。こんな不完全なマシンでは誰も戦えないもの」

「不完全? それを承知の上で、この機体に乗ったのですよね?」

 ラバーズは相変わらず冷静に返答する。


「ねえ教えて、私はどうしたら……ラバーズ。どうすればいいの!?」

 必死なセブンスの問いに、ラバーズは淡々と答える。

「逃走するエネルギーはありません。私のサポートも精一杯です。指示はもっと正確に、明瞭に願いします……破壊まで後2分35秒です」


 残り時間に耳を塞いだセブンスには、もうラバーズの言葉も意図も届いていない。


「助けるって。約束したのに全員死ぬ……私のせいで」

 コンソールに上半身を投げて、泣き出すセブンス。


「……赤ん坊でも……泣くと笑うは……出来るよね……セブンス……途中で投げ出す……なんて許さない」

 鈴々の声が微かに聞こえた。

「この声は鈴々!? 生きているの!?」

 鈴々の姿がセブンスドールのディスプレイに表示された。


 血の泡がフワフワと浮かぶ、鮮血の鈴々のコクーン。

 真紅の画面の中で、鈴々は少しだけ口元を緩めた。


「ふっ、残念ながらまだ生きているわセブンス……あなたが投げ出したら……殺す事になるわね。クロムは優しいから……あなたを許すかもしれない……でも私は……許さない絶対にね」


 セブンスは泣きながらスクリーンに映る、鮮血のコクーンを見る。

 息をするのがやっとの状態の鈴々は、時々、咳き込み血の泡が増えて、真っ白なコクーンを、紅に染めあげていく。


「ばかな人形……もう自由なのに。好きな死に方を……選べるのに」


 両手で自分の頭を抱えて、鈴々の言葉を聞かないようにするセブンス。

「もう無理なの……私の責任だよ。私には無理だったんだ……ごめん、鈴々」

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