第40話 A.D.4020.鈴の思い出

 強烈な衝撃を受けた鈴々が見た光景。


「……緑の香りがする……風が優しい……この感じ……は?」


 目を開けると、軽く傾斜した裾野が足元に広がる。

 先に青い湖が見え、反射する光にの視野の先に、愛する人達がいる。


「レニウム、クロム、テルル……私のチーム……家族」

 芝生に寝転んでいた鈴々が身を起こすと、レニウムとクロムが右手と左手をそれぞれに取った。


「早く起きろよ」

 二人の声に鈴々は笑った。


 二人に手を引かれて立ち上がり走り出し、草原の湖に続く坂道を先へと進む。


「なんてきれいなの……私は幸せだ。戦争で両親を亡くした幼い私が、夢に見たもの。それは家族。そして愛する人」


 レニウムとクロムの引っ張る力は段々と強くなっていく。

「待ってよ。そんなに力入れたら……そんなに早くは走れないよ」


 鈴々の言葉に前を向いたまま、どんどん速度を上げていく二人。

 笑いが消えた鈴々……引っ張る力がどんどん強くなる。

 強引に引きずられるように、湖へと近づいていく。


「やめて! どうしたの二人とも!?」

 振り返ったレニウムとクロム。

 その顔には瞳が無かった、ポッカリと真っ黒な穴が空いていた。

 

 鈴々の手に伝わってくる感触……ポロポロと二人の腕から落ちる蛆が自分の手を這ってくる。


 腐った身体のクロムとレニウムが笑う。


「鈴々、早く……死ねよ。みんな待っているんだ……おまえが死ぬ事を」

「え、嫌……この先には行きたくない」


 嫌がる鈴々を二人が強引に、湖に引きずり込もうとする。


「お願い止めて! どうしてなの? もしかしてセブンスが現れたから?」


 無言の二人に鈴々が首を振りながら、言葉を続けた。


「分かっていたの。私はセブンスには敵わない。感情を得て人形から人へと変わる時に世界を人類を救ってくれる……私なんかじゃ、お話にならない。でもね、でも聞いてクロム! 私は……したいの」

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