第38話 A.D.4020.セブンスの出撃

 鈴々の機体の残像が蒼い流星となり、艦橋のスクリーンに映る姿を見て、震え出すセブンスはその場に座り込む。


「死ぬのが?……嬉しい?……一緒に死ぬのが嬉しい?」


 震える身体、理解出来ない鈴々の行動と言葉。

 左目の微かに光る星がセブンスに囁く。


(セブンス……死に方を選びなさい……)


「死に方? 鈴々は死に方を見つけたの? 私は……私はどうしたいの?」

 床から立ち上がったセブンスが、レニウムを真っ直ぐに見た。


「レニウム。あれを使わせて欲しい。私は生きたい……そしてクロムを助けたい」

 セブンスが指さすスクリーンに写る、ハンガーの奥に紅い色のコンテナがあった。


「どうして分かるのセブンス? でも無理よ。アレを見た事も無い、今まで存在すら知らなかったのでしょ?」

 テルルの驚きにセブンスが頷いた。


「やっぱり知らないんだ! まともに戦えるわけないでしょう!」

 テルルがヒステリックに叫ぶ。

「だが、もうこれしか方法がないかもな。セブンスとアレに賭けるしか」


 レニウムの言葉に、テルルが大きく首を振る。

「ある! セブンスを返すのよ。敵が欲しいのは、セブンスでしょう?」

 テルルの言葉に、今度はレニウムが首を振る。


「今渡せば、セブンスは改造され全ての記憶を失い、新たな戦闘ドールズとなる。そして我々の強敵として対峙する事になる」

 操縦席から、立ち上がったテルルが叫ぶ。

「じゃあ、どうするの!? 見た事も無いアレにセブンスを乗せて、戦わせるわけ? それこそ一瞬で破壊されて全ておしまいだわ!」


 テルルの猛反対。判断がつかないレニウムがセブンスの方を向いた。

 まるで自分自身を納得させ、確認するように話を始める。


「あの赤いコンテナの中身は、シルバに造られた最新型ナンバーズドールが入っている」

 セブンスが頷きレニウムに言葉を重ねた。


「ええ、私たちは一人に一対の戦闘マシンが存在する。性能は驚異的なもので、あなた達反乱軍は姉たちに多大な被害を受けてきた」


 セブンスの答えに、レニウムが自分たちの行動の意図を付け加えた。

「知っていたか。解放軍からはお前たちナンバーズドールは恐怖そのものだ。戦略上重要な星を何度も攻略したが、お前の姉のフィフスを倒すことが、我々の力では出来なかった。そんな中で新たナンバーズドールが、ロールアウトするとの噂を聞いた」


 テルルが言葉を続ける。

「あなたを探している途中で別の”セブンス”のロールアウトの情報を得たの。そして奪取したのが、あの紅のコンテナ。その中身は……」


 静かに肯いたセブンス。

「私と一対で造られた戦闘マシン”セブンスドール”」


 頷きレニウムが話を続ける。

「我々は奪取したセブンスドールを解析した。恐怖の殺戮マシンであるナンバーズドールを解明する為に。その結果は信じられないものだった……セブンスドールはヘルダイバと同じ構造持つ近接戦闘兵器だった。だが、メインエンジンが無い。武装が無い。それどころか装甲すら持っていない状態だった」


 テルルが首を振り、大きく落胆を示す。

「つまりセブンスドールはまだ“未完成”なのよ。戦う事など出来ないの。装甲の無いボディは、敵の攻撃を受けて一撃で破壊されるわ」


 未完成な兵器セブンスドールの機体は戦う力を持っていなかった。

 セブンスは黙ったまま、エレベーターへ向かう。


「何処へ行くのセブンス? 私達の話を聞いてなかったの? セブンスドールは戦えないのよ」


 テルルの言葉に一瞬立ち止まったセブンス。

「私は行くわ。死に方を見つける為に。そして、みんなを救う為に」

 セブンスの姿を見ていたレニウムが、テルルに言った。


「テルル、コンテナを開封。セブンスドールを起動する」

「そんな!」

「命令だ。テルル、セブンスドールを起動する」


 無言で操縦席に座り、コンソールを操作するテルル。

 ディスプレイに、テルルは自分の絶望的な表情を見た。


 赤いコンテナの解放作業に入ったテルルを見て、レニウムがセブンスに伝える、


「セブンス良く聞いてくれ。セブンスドールは装甲を持っていない。敵の攻撃は回避するか盾で防げ。うかつに攻撃を受ければ数分しか機体が持たない。移動用の機能は外付けで、機動ブラスタをくっつけた。速度は出ないが、移動は可能になっている」

 レニウムはセブンスに操縦する際の注意を与えていた。


 帝国から奪取した究極の破壊マシン“セブンスドール”

 真紅の機体には何の装備も取り付けられていなかった。

 攻撃や防御はもとより、移動の機能すら無い“未完成”その余りにも非力な性能。


 戦闘兵器とはとても呼べない現状にレニウムは、絶望感を再度思い知らされる。


「武器だが……ヘルダイバは通常三機の核融合炉を持っていて、一つをコクーン(操縦席)の超伝導の糸や機体の制御に使っている。二つ目は武器のエネルギーに使用。三つ目は移動用の推進力に使う。しかし、セブンスドールには、一つの小型の核融合炉しかない。ビーム武器に使用するにはパワーが足りない。そこで実弾のミサイルランチャーを用意した。弾数に限りがある、リロードに時間も必要だ。よく覚えておけ」


 セブンスドールのコクーンの中で、出撃を待つセブンスはクロムの言葉に頷く。


 オート操作で射出用のリニアへ移動するセブンスドール。

 発信準備が整い、射出用リニアの「Ready」のランプが点灯する。


 歩く、飛び立つ、そんな簡単な操縦さえ解っていないセブンスに、テルルが心配そうな視線を投げる、レニウムはその視線を感じながら、逆に強い口調を見せた。

「セブンス、未だクロムの位置は解ってない。しかも鈴々との連絡も切れた。五分前に、鈴々のビーコンが伝えてきた座標へ射出する。気をつけろ……必ず、戻ってこい!」


 セブンスの周りに浮かぶ半球体の3Dスクリーンに、座標が表示された。

「ありがとうレニウム。テルル……私いくね」


 リニアにパワーが送られて、赤い軌道を残したセブンスドールが、暗き宇宙へ飛びたつ。

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