第37話 A.D.4020.死に方を見つける為
「あと少し……もう少しなんだろレニウム? このまま進めよ。おれ達の未来はすぐそこだ」
強がるクロムの疲れ切った姿を見てたまらず叫ぶテルル。
「クロムもう無理よ。レニウム降伏しましょう!……セブンスを渡せばいいじゃない!」
レニウムがスクリーンのクロムから、テルルへ振り向く。
「セブンスは、オレ達の最後の希望だ。今、諦めれば全てが終わってしまう」
レニウムの言葉にスクリーンの奥で頷くクロム。
「そうだ……セブンスを失えばオレ達は……帝国にミネルバに勝てない」
切れ切れに聞こえるクロムの声に、頭を抱えて左右に振り続けるテルル。
「だって、だって、このままじゃ……みんな死んじゃうよ」
メインスクリーンが強く輝いた。
攻撃衛星が四基ずつ横に並んで編隊を組み直し、照準を合わせて同期攻撃をクロムに始めた。左に右に機体をかわし、光の束を回避するクロム対して四機四編隊、十六機からの一斉攻撃始まった。
回避を続けるクロムは防戦一方で、徐々に回避不可能な地点に追い込まれていく。
空間を封じられたクロムを、ついに数十の衛星の照準が捕らえた。
「ちぃぃぃい!」
空間を封じられたクロムは、迫る攻撃衛星へ真っ直ぐに向き盾を両手で構える。
十六のブラスタ砲が輝きクロムを撃った。
十六の光の束が集まり一本の強い光になり、クロムの持つ盾を簡単に貫通する。
輝きを放ち真っ赤に溶解し、粉々に弾け飛ぶ盾。
後方に吹き飛ばされたクロムの黒いヘルダイバは、全身を被弾して胸の分厚い装甲が吹き飛んだ。
セブンスが生まれて初めて、心の底から叫ぶその名前を、
「クロム!」
光は消えない。
盾が破壊されても衛星は攻撃を続行する。
次々と打ち込まれる光の筋に、ただ撃たれ続けるしかないクロム。
「クロム! 返事をしてクロム!」
閃光が輝く最中、セブンスのクロムを呼ぶ声は続く……しかし応答はない。
「クロム……」
セブンスの声がだんだんと微かなものになった時に、衛星の攻撃が止み消えた光のシャワー。
闇に戻った空間。クロムの機体も消えた。
「どこ? クロムはどこなの」
セブンスの消え去りそうな声に、応えた声は女性のもの。
「まったく、人形が何を猫みたいな声を出しているの」
メインスクリーンに警告が表示されている。
出撃ハンガーのハッチが、オープンされようとしていた。
「クロムがそんなに簡単に、死ぬわけないでしょ?」
ヘルダイバに騎乗した鈴々がセブンスへ言葉を続けた。
「鈴々!? おまえ何をする気だ」
レニウムがハンガーのモニターを見ながら、鈴々に呼びかける。
ハンガーには反乱軍の戦旗カラーである、ミッドブルーに輝くヘルダイバが、発信準備をしていた。
F102式、反乱軍のメインウェポンであるヘルダイバ。
クロムの101式より量産タイプの為に装甲がやや薄く、肩の光子砲も装備されていない。メインウェポンのブラスタ砲と、クロムの専用兵器“リアルレールガン”を抱えた鈴々の機体が動き出す。
「レニウム早くハッチを開けて! 今すぐに行かなくちゃいけないの」
「鈴々、おまえ……勝機は無いぞ」
レニウムが首を振り、スクリーンの鈴々の顔をジッと見た。
「勝ち負けは関係ないの……レニウム。私は届けるの。クロムにこのレールガンをね。したいことはそれだけなの」
「だがクロムは生きているか……わからない。それでも行くのか鈴々?」
艦橋のレニウム、テルル、そしてセブンスが俯く中でも、鈴々は明るい顔を見せてハッキリと答える。
「生きているわよ。私には分かる。クロムは生きているの。だから行かなくちゃ!」
鈴々の明るさに絶望から顔をあげる三人。確信を持って話を続ける鈴々。
「クロムは待っているの。私には分かる」
「鈴々、あなたって……そうね、クロムは生きている。レニウムお願い、ハッチを開けてあげて!」
テルルの言葉に、レニウムが鈴々の顔を再び見た。
「鈴々、もう……戻れないかもしれないぞ」
嬉しそうに幸せそう鈴々が答える。
「いいよ。クロムと一緒に死んであげられるなら、私はそれでいい」
レニウムが目を閉じた。
「もう止める理由は無いようだな。死に方を見つけたのか……鈴々。テルル、ハンガーのハッチをオープンして。発進用リニアにパワーを送れ」
ハンガーのハッチが開き、蒼きヘルダイバを撃ち出すリニア発射台にランプが点灯する。
「ありがとうレニウム。またねテルル」
スタンバイランプが消灯して「Ready」が点灯。
直後、鈴々の機体がリニアの超伝導で撃ち出された。
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