第36話 A.D.4020.衛星軌道での戦い

 エイトドールの周りにオレンジ色の、シールドが展開されていく。


 直後、サンタナの長距離攻撃が着弾するがミサイル、レーザー砲の着弾でも、巨大な質量と完璧なエネルギーシールドにより微動だにしない巨大な要塞。


 エイトが椅子に埋め込まれたクリスタルに手を翳すと、微かな振動の後に目の前に現われた透明な操作パネル。

 そこには、八百八十八の攻撃衛星が、チェスの駒のように、シンボルで表示され、星々のように白く瞬く。


「A001をA201へ。B221をB223へ」


 チェスの駒のように、パネルに浮き上がる衛星を細い指で操るエイト。


 クリスタルの操作パネルには、位置と機体情報が表示され、エイトの意志により八百八十八の攻撃衛星は、命を吹き込まれ自在に動き始める。


「攻撃パターンを、十字砲火に切り替える」

 作戦を声に出しエイトが攻撃衛星の布陣を進める。

 素早く、優雅に、ピアノの演奏者ようにパネルタッチを続けるエイト。


 百人のオペレーターは、この母艦要塞の運営と情報管理だけを行い、戦闘についてはエイトが全て担当する。百人のドールを簡単に越えるエイトの驚異的な性能。


 正面のメインスクリーンに、クロムが乗るヘルダイバが映った。


「来たわねクロム。フフ、楽しみ。野蛮人の肉と血ってどんな色なのかしらね」

 エイトの右手が優雅に動き、桜色の口が小さく開戦を告げる。


「戦闘開始」


 サンタナの艦橋でも、チームリーダのレニウムから指示を飛ぶ。

「いいか巨大要塞エイトドールはシールドを張っている、遠距離からの攻撃は無駄だ。脱出ポイントF999へ速やかに移動する。途中の邪魔な衛星のみ破壊し、移動を重視せよ」


「了解」

「解った」

 艦のパイロットのテルルと、ヘルダイバの搭乗者のクロムが答える。


「よし、こちらもエネルギーシールドを全開だ。光学迷彩を維持して補助エンジンを最高速へ、メインエンジンをスタンバイ!」


 サンタに光学迷彩がかかり、同時にクロムの乗る黒きヘルダイバが一気に加速してサンタナの前に出る。

 クロムの元に集まってくる攻撃衛星。

 その一つが光り出し、ブラスタ砲を撃ち出した。


「いきなりかよ! この!」


 盾で強烈な光を真っ正面で受けるクロム。

 ブオォォオオ、もの凄い反動と同時に、盾が赤く燃える。


「やばいなさっきとは火力が違う、盾では受けきれない」


 攻撃衛星の尋常ではない攻撃力を感じクロムが呟いた。

 エイトが操る攻撃衛星は一個が直径20M程あり、中心にはヘルダイバが持つブラスタ砲を上回る、巨大な砲塔が装備されている。

 撃ち出されるブラスタの威力は桁違いだった。


 ジュジュジュシュルル、数発の直撃を受け、ついには溶け始めるクロムの盾。

 強制冷却システムが盾を素早く冷やすが、盾にはかなりのダメージが残った。


「クロム! エイトドールの攻撃衛星が複数接近中!」


 ラバーズの声にポップアップした球形の警告メッセージを確認したクロム。


 接近してくる衛星を迎え撃つ体勢に入るが、それより早く衛星の側面が開き、追尾ミサイルが発射された。

 複数の大きな円を描き、クロムの迎撃システムを外しながら、近づいてくるミサイル。

 

 着弾直前でさらに多段に分離し、数十の弾道がクロムを襲う。


「回避不能と判断! ヴァレット起動。対象物を破壊する」


 ラバーズが機体の操作に集中しているクロムに代わり、自動攻撃を宣言する。

 ヘルダイバの肩の装甲がオープン。

 四つの光子レンズが現れた、素早く、強く、光瞬く光子レンズ。

 数十のミサイルが、瞬時に蒸発する。しかし再び輝き始める攻撃衛星。


「させるか!」


 レーザー攻撃の準備を行う衛星へと、フル加速で接近するクロムに、烈なブラスタ砲が撃ち出された光の束が襲う。

 操縦パネルに高速でコマンドを入力して姿勢制御するクロム。

 機体を大きく傾けブラスタ砲を避ける。


 閃光がクロムの機体をかすめる中で、小さく円軌道を描きながら、攻撃衛星の真横へ付け、ブラスタアックスを背から抜くと、赤く輝き出すブラスタの熱を切れ味にして、衛星の真横にアックスを力一杯打ち込み、縦にそのまま切り裂く。


 衛星が爆発。輝きが周りを一瞬照らし出す。

 しかし、まるで光に集まる蛾のように、接近するたくさんの攻撃衛星。


「く……こんなの、あと幾つあるんだ?」

 クロムの言葉にテルルがコンソールで敵数を確認する。

「えっと……八百八十七個」

「たったの八百か。これはいい運動になりそうだな」

 

 クロムの呟きが終わらないうちに、数個の攻撃衛星が光り始める。

 攻撃衛星が複数同時に瞬き、クロムのヘルダイバをかすめて、光の筋が通り過ぎる。


 回避運動を続ける、クロムの前に迫った、数十もの衛星が瞬きだす。


 絶え間ない攻撃を驚異的な操縦技術と体力で、ギリギリで回避して戦いを続けるクロム。だか、精神、体力。そして機体も武器も全てが消耗していく。


「いったい、どれくらいだ!?」

 レニウムが苛立ちサンタナの艦橋で大きな声を出す。

「どっち? 脱出までの距離? それとも敵の数?」

 テルルが同じく苛立ちから、声を大きくする。

「両方だ!」


 確実に消耗するクロムと騎乗する黒きヘルダイバに、指揮官のレニウムでさえ苛立ちで冷静を保てない。


「怒鳴らないでよ! みんな同じ気持ちなんだからさ!」

 言い返したテルルが、メインスクリーンを見て戦況を確認。


「あっ」

 小さく声を出すテルル。

 被弾し内部を露出し機器がショート、青いスパークを発するクロムの黒きヘルダイバが写る。


「……脱出まであと距離は50%で、時間にすると一時間。敵の数は……833機」


 テルルが告げた絶望的な数字。

 あと一時間もクロムがこのまま戦えるとは、誰にも思えなかった。

 残る敵の残数は殆ど減っていないし、本体の巨大浮遊要塞は少しも動いていない。

 相手はまったく本気を出していない。


 セブンスがレニウムを見た。


「もう無理よレニウム。クロムを帰還させてあげて」

 レニウムが険しい顔をして肯いた。

「クロム帰還しろ。もう十分だ」


 スクリーンにクロムの疲労した灰色かかった顔が写る。

「ばかいえ、レニウム。このまま進め!」

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