第35話 A.D.4020.巨大要塞エイトドール
レニウム、テルル、セブンスがいる艦橋と、ヘルダイバ発着デッキの鈴々は、驚きの表情のままに言葉が出なかった。
帰還しようとしていた黒きヘルダイバの中のクロムも同様だった。
五人が見つめる先の衛星軌道上に浮かぶ銀色の巨大な要塞。
周りををたくさんの攻撃用衛星が回っていた。
巨大要塞の内部には、百人を越すオペレーター。
その全てが戦闘補助のドール。
一段高い場所に他を圧倒する力と美しさを持つ、一人のドールが座わる。
透き通るフロア、調度品の全てが光り輝くクリスタル。
「間に合ったようね。よかったセブンス姉さんに会えた」
意志の強そうな大きくて黒い目。髪は青い色。毛先にカールがかかったミディアムボブ。立ち上がったその姿は小柄だが、どこかセブンスに似ていた。
「エイト如何しますか? まだこの要塞エイトドールはロールアウトしたばかりで調整不足です、7%程度の性能しか出ません」
オペレーターからの質問に、答える銀色の瞳のドール。
「構わない。7%で十分。この程度の相手なら相手は野蛮人」
2KMを越す巨大な浮遊要塞は、セブンスの妹”エイト”専用に建造されたマシン。
”エイトドール”は円盤型で外苑部に、十二基の巨大な核融合炉を持ち、その無尽蔵なエネルギーで、数百もの攻撃衛星を操る事が可能だった。
銀河を守り破壊する女神達が持つ超兵器“ナンバーズドール”を、やはり最新作であるエイトが呟く。
「さあ、セブンス姉さん。私のエイトドールと戦って頂戴。未来を継ぐのは誰なのかハッキリさせたいから」
ナンバーズドールは大貴族シルバが作り出したドール。
世界を変える力を持つ彼女らが一人々が持つ超破壊兵器は、恐ろしい破壊力を秘めていた。
ナンバーズドールは8体の作成が確認されているが、現在所在が分かっているのは、フィフス、セブンス、エイトの3人だけ。
番号を名前に持つ彼女たちは、自身が人を越える性能と美しさを持ち、特徴から番号の名前だけではなく二つ名を持っている。
「おいおい! あんなの聞いてないぞ! 無理無理!」
手を振ったレニウムが呆れ気味に呟く。
「いくらなんでも、でかすぎだろう!? 平和主義のおれとしてはパスしたいぞ」
「……新型みたいね。軍のコンピュータジャーナルにも乗ってない」
レニウムの愚痴をパスして、テルルが目の前のエイトドールの情報の検索結果を伝える。
「テルル。空間ジャンプで逃げられないか? まだ距離はありそうだ」
「無理ねレニウム。滑走距離がとれない、それにジャンプの為に迷彩をとく必要がある。シールドもね。あのデカブツが丸裸の私達を、黙って通してくれるわけない」
メインスクリーンに写る巨大要塞”エイトドール”を、ジッと見ているセブンス。
「どうしたセブンス? 何か知っているのか?」
レニウムがセブンスを見た。
セブンスが、メインスクリーンを見ながら呟いた。
「この子はエイトドール。まだ”起きてない”」
「エイトドールって言うのか。名前から察するにシルバが作った破壊兵器だな。光のメサイヤと呼ばれるシリーズ。こんな物騒な子供はいらないな」
レニウムが苦笑しながら、クロムを通信で呼び出す。
「デカイ坊やがまだ寝ぼけている間に、サンタナの主砲と光子魚雷で援護する。クロムは脱出口を開いてくれ」
ディスプレイに小さなウィンドウが開き、クロムがニヤリ。
「まったく簡単に言ってくれるな。作戦はそれだけかレニウム」
レニウムもニヤリと頷く。
「ああ、そうだ。いい作戦だろ? モテ男クロムの株がさらにあがりそうだ」
クロムがサブスクリーンで肯く。
「それはいい話だな。まあ、生きていればの話だが。相手は知らない仲じゃなさそうだ。前にコーヒーをおごる約束したし、肉を食わせるとも言ったしな。しょうがない、腹一杯食わせてやるか……待ってろエイト」
レニウムが艦橋に並ぶ複数のコンソールを見て、素早く状況を確認し、実際の作戦を立案してテルルに指示を出す。
「主砲、光子魚雷を準備。五分間の敵浮遊要塞への攻撃を行う。その後は、クロムが先行し敵の攻撃を分散させ、本艦の軌道を確保、全速で脱出ポイントへ向かい空間ジャンプで一気に離脱する。作戦計画開始する!」
巨大要塞”エイトドール”内部の百名を越す、戦術オペレーターから、矢継ぎ早に報告があがる。
「船艦サンタナが移動を開始」「黒きヘルダイバが移動開始」「敵戦艦よりエネルギー反応」
「敵戦艦より、ミサイル発射を確認」
中央の一段高い舞台のような場所に座るエイト。
両手を胸の前で組み、大きな瞳をコンソールに向け命令を発した。
「防御シールド展開し、攻撃衛星へエネルギー伝達を開始せよ」
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