第34話 A.D.4020.強大な敵

「成層圏まであと40秒。メインエンジン起動準備! クロム早く戻って!」

 戦艦への帰還を促すサンタナのパイロットのテルル。


 ヘルダイバのハンガーにいる、鈴々がクロムへ話しかける。

「ハンガーをオープンしたよ。早く帰ってきてクロム……チュ!」

 

 鈴々のクロムへのあからさまな好意と、そしてセブンスへの対抗意識。

 鈴々の隠さない感情を受けて、セブンスは心がざわめき落ち着かない。


  腕をつなぐクロムと鈴々の姿が浮かび、胸の奥が熱くなる、もやもやと何か解らない、初めての感情がわき出てくる。


(何この感情は……なぜクロムと鈴々が気になるの)


 不安定なセブンスを見たレニウムが驚いていた。

「セブンスまさかおまえ、クロムが気になるのか? その……好きなのか?」

「ええ? そんな事……あるわけない!」


 大きな声で、答えてしまったセブンスが慌てて口を押える。

「ふ~~ん。お人形さんって聞いていたけど、ヤキモチ焼くのねえ~~以外だ」

 

 操縦席のテルルが笑った。

「ヤキモチ……なにそれ……私にはインプットされていない」

 テルルの言葉にセブンスは、自分で理解できない感情の呼び名を知る。


 レニウムは、しげしげとセブンスを見た。


「こんな不安定なドールは初めてだな。さすが最新型と言うか」

「私だって……こんな気持ちはクロムと会うまで無かった。さっきまでは楽しかったのに、今は何故か胸が苦しい」


 セブンスの答えに感心したような、呆れたような表情のレニウム。


「それは恋心だと思うぞ。それにしてもあんな大雑把で脳みそが筋肉で出来ている、恐竜みたいな男のどこがいいのかね。鈴々、物好きはおまえだけじゃなかったみたいだぞ」


 レニウムの言葉にハンガーでクロムの着艦を待つ鈴々が不満そう。


「ええ~~!? 一緒にしないでよ。ドールが人間を好きになるって? ふん、人形は貴族のボンボンの相手でもしてなさいよ!」


 鈴々が明確に表すライバル意識に、益々戸惑うセブンス。


「ヤキモチ……私にはそんな機能は……ない……はずなんだけど」

 セブンスの人間のような本物の戸惑いを見た、艦橋のレニウムとテルルは目を合わせた。


「おいおい、どうやら本気らしいぞ……機能って……ドールが人に恋心を持つのは有り?」

「べつに、いいんじゃない? セブンスもドールの前に女って事でしょう?」

 盛り上がるサンタナに、噂のクロムから応答が入る。

「おまえら戦闘中だぞ! まじめにやれ!」


 その言葉にレニウムとテルルが肩をすぼめる。

「モテ男くんがお怒りだ……」


 突然サンタナの艦橋のディスプレイに警告が表示された。


「なんだ?」

 レニウムの言葉に、テルルがシステムメッセージを確認する。


「これは……衛星軌道上に敵の戦艦らしきものが現れた」

「なんだと!? そんなもの、ここに降りる時は無かっただろ?」

「ええ。今、突然現れたの……え? ちょっと待って!」

 テルルがコンソールを調整して、メインモニタにそれを映し出した。

「なんだあれは……」

 レニウムが言葉を失った。


 前面のモニタには衛星軌道上に浮かぶ、直径2KMを越える超大型の浮遊要塞が写っていた。

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