第32話 A.D.4020.出撃
サンタナは突き出た岬の左舷をかすめて、姿勢を変え船首を持ち上げた。
この時代の戦艦はコンピュータによるフルコントロールで、一人で艦の運用が可能である、しかし、地上付近の重力がある大気圏で、極低空を自在に飛ぶには、通常の人間では、艦から与えられる情報と、それに対するレスポンスをスムーズに与える事が出来ない。
ガングリップタイプの操縦桿を右手で操作しながら、目の前に浮き出るAR操作パネルを左手で高速でタッチするサンタナのパイロットであるテルル。
操縦能力向上の為に、動態、体感、空間の3つ把握力を強化された遺伝子を持つ、特定優先遺伝子人類だ。
特定優先遺伝子人類は全てが煮詰まった西暦四千年の人自身を改造して、新たな進化に進む為に行われた末世の所業の一つだった。
ゆっくりと回転運動をしながら、船首の方向を山側から。青い海の上で変えるサンタナは、補助エンジンにエネルギーが送り込まれ、推進力を上げて急速上昇を開始する。
操縦桿を右手で手前に引いたテルルが注意を口にした。
「サンタナ上昇開始。30秒後にメインエンジンりスタート。めちゃ揺れるよ」
艦橋にレニウムのテルルへの復唱が響く。
「了解。30秒後にメインエンジンりスタート。上昇許可」
一気に速度を上げて地上を離れるサンタナ。
地上の景色がみるみる、小さくなっていく。
上空から赤い光点がサンタナを照らした。
「クっ、やっぱり来たか。シールド展開!」
サンタナの船体がオレンジ色の球体に包まれる。
エネルギーシールドを展開した艦に衝撃が走る、上空からのブラスタ砲の攻撃を受けて大きく揺れ失速する。
右手を微妙に調整して左手で計器類をタッチし、艦の態勢を整えたテルルが呟く。
「追ってきたヘルダイバーは岬で振り切った筈だよね!? それにこの破壊力はいったい!?」
艦橋のメインスクリーンに銀色のヘルダイバが四機写った。
「警察じゃなくて防衛部隊のヘルダイバだな……大気圏ではやっかいだ。あっちの方が機動力が有り早い」
サンタナの艦長であり、クロムが所属するチームをまとめるリーダのレニウムが戦況を確認した。
「頭を取られた! このままでは上昇できないよ!」
テルルが叫びと共に、水平飛行に戻され、上空から攻撃を受けるサンタナ。
操艦するテルルの言葉に、腕組みをしたレニウム。
クロムの顔がメインスクリーンに割り込んだ。
「頭のハエはオレが追っ払う。鈴々出るぞ!」
サンタナの下部のラッチが開き、黒きマシンが発進準備に入った。
クロム・サードが乗る反乱軍の最新兵器は黒きヘルダイバ。
同じく黒いパイロットスーツのクロムの前に一人の少女の姿が現れた。
小柄な身体が幼さを見せ、愛らしさも見せる。
「久しぶりねクロム。また女難の相が出ているけど、もうお人形さんとは、エッチしたの?」
ヘルダイバ戦闘OSラバーズの言葉にドッキリとするクロム。
「おまえなあ。他のラバーズはもうちょっと、上品な話し方をするぞ」
「確かにそうね。でも、私の口が悪いのは、操縦者の接し方のせい。あなたに合わせて私の行動論理は修正されるの。まあ、似たもの同士って感じでいいじゃん」
小悪魔的な表情を見せる、自機の戦闘用OSラバーズに、顔をしかめたクロム。
「くう~~おれの周りには、おまえみたいな女ばっかりだ。まてよ? そういえば最近、おまえによく似ている女に逢ったな。誰だっけ?」
「そんなの私が解るわけないでしょう? 発信準備が完了したわ。いくわよ野蛮人」
サンタナの艦底の発進デッキのリニア発進器に、エネルギーが送り込まれて
「Ready」が表示された。クロムが大きく気合いを入れる。
「いくぜ帝国の番犬ども! クロム出撃する!」
黒き巨体をリニアの反動で高速で空中に打ち出す。
サンタナから弾き出されたクロムの乗るF101式ヘルダイバは、反乱軍の最新兵器であり、トップガンのクロムの機体は黒く塗り変えられている。
クロムのヘルダイバの背中に装備された、六個の飛行用ブラスタがオン、六本の排気口が震え、高速でイオンが吹き出だす。
リニアの発進の速度に、機動ブラスタの推進力を合わせて、グンっと加速し、上方の四機の敵軍ヘルダイバへとクロムが上昇を始める。
上空でクロムの上昇を確認した四機は「一瞬クロムを攻撃」するか「サンタナを攻撃する」連携が乱れた為に間を置いて、二機がサンタナを追い、残り二機がクロムのヘルダイバを狙う。
「戦闘の反応が遅いな」
ニヤリと笑ったクロムは、コンソールへ回避ヴァレットを数種類打ち込む。
”ヴァレット”システムは一連の動きを、一発で指定できる自動戦闘マクロシステムで“攻撃の射程に入ったらブラスタ砲を撃て”“敵のミサイル攻撃は防御しろ”など、予め行動をマクロ化しておき、ヴァレットコマンド一発で指示出来る。
また高度な判定文やイベント管理情報を書き込める為、敵の動きに合わせて、指示を受けたヴァレットは最適な行動を選び自動で行動をとる。
人間の条件反射をAI化したものだった。
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