第29話 A.D.4020.超兵器ヘルダイバ
ゴーンゴーン、重低音の機械音。
巨大なマシンが空中で静止している。
人型をした巨大な戦闘マシンのコクピット、通称コクーンで会話が交されていた。
「クロムとセブンス両名。逃亡者への威嚇は如何いたしますか?」
ラバーズの問いに、コクーンの中でパイロットが指示を出す。
「警告の後に威嚇射撃を開始だ」
長い青い髪の人ラバーズが肯く。
パイロットの側に立つ少女の大きさは人形程だが、非常に精密に3Dで映し出される。
”ラバーズ”はヘルダイバの戦闘用OS。
機体とパイロットとのインターフェースである。
ヘルダイバは戦闘中に非常に多くの情報の取得、判断、指示、そしてコマンド入力、操縦を行う必要がある。その為に、最優先のオペレーションを補佐し、素早く行動する擬人化プログラム”ラバーズ”を搭載していた。
空中でセブンスを監視するヘルダイバの立体映像で映されたラバーズは、国や部隊により、性能や仕様は違うが立体映像で、人として表示され、言葉を話し、パイロットのサポートをこなす点は共通。
ヘルダイバの操縦や兵器を用いた攻撃、軌道計算など、パイロットと同じ操作を行える。表示されるスキン(立体映像・音声)は、たくさんのアバターが用意されているが、十二歳~十六歳の少女が、パイロットに人気がある。
”コクーン”はヘルダイバ専用の繭の形のコクピット。
多数の細い超伝導の磁場の糸により、操縦席は柔軟に固定され、人型の為に起こる歩行の上下動、敵の攻撃の衝撃などを緩和する。
ヘルダイバが受ける全ての衝撃は、超伝導の糸が吸収し、パイロットへの負担を大幅に軽減している。
セブンスとクロムの頭上にホバリングする、治安部隊の銀色のヘルダイバ。
身体に響く機動ブラスタが噴出するイオンの重低音。
高音を発する、ヘルダイバのモーターのシーク音に、木々はざわめき建物は共振し、店の旧い壁は亀裂が入り崩れ落ちる。
眼下への警告が発せられた。
ラバーズの可愛らしいが、凛とした声がスピーカで拡大されて周辺に響く。
「警告します。逃亡者二名は速やかに、武器を捨て店の外へ出てください」
幼い少女の声の警告。同時に空中で攻撃体勢をとる巨大なマシン。
手にはライフルタイプのビーム兵器が抱えられていた。
「反応なし。投稿者ゼロ。これより威嚇射撃を開始します」
ラバーズが発した威嚇攻撃の開始。
その涼やかな声とは似つかわない、強烈な威圧感と破壊の波動が周りに伝わる程のインパクト、巨大兵器の右手が動き始めた。
ヘルダイバの右手には、高出力の巨大なライフルタイプのブラスタ砲が握られている。
銃口から撃ち出された、オレンジ色の閃光が地上の建物を打ち抜いた。
バッシュユン、ブラスタガンの発射音、直後に爆発音が続き建物と近くの道路が吹き飛んだ。
真っ赤に燃え炎と灰燼が視界を狭める中から、二つの炎が空中に飛び出した。
走る炎は風で切れ、二台のモータサイクルが姿を現す。
二台は加速を続けて、海辺の桟橋へ一気に走り込む。
桟橋の板が巨大なトルクにより、後輪で弾かれていく。
先頭を走るのはNINJA、クロムが乗る超大型モータサイクル。
「よし、ついて来いセブンス! 遅れるなよ」
道路を一気に下り、海の直前の桟橋の曲がり角を力づくで曲がるクロム。
その内側に鋭く切り込むのはもう一台のマシン、セブンスの乗るハヤブサ。
空中からピッタリと二人の背後に着いてくる巨大な人影。銀色のヘルダイバ。
飛行の衝撃と音圧が、海にさざ波を立てている。
「追ってきてる。いったいどうする気なのクロム?」
セブンスがサングラスに内蔵されたレシーバーで、横を走るクロムに呼びかける。ニヤリとクロムが笑う。
「さっき言ったろ? オレについてこい。あいつから逃げる計画は既に始まっている」
「始まってるって何!? 説明して、あっ! まって!」
無言で加速するクロムに意図が分からないセブンスも、遅れないようにアクセルを全開にした。
クロムのNINJAは、砂浜を走り、海辺の細い道から、岬へ出る道を駆け上る。
「えっ岬!?」
セブンスが思わず呟く。
(岬は行き止まりのはず……どうする気なのクロム?)
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