第26話 A.D.4020.セブンスの妹ナンバーエイト

三人は海辺の小さな豪華で趣味がいい、レストランで紅茶を飲んでいた。

クロムが嫌いなこじゃれた店でエイトの顔パスの店で。


「それで、私に何か用があるのエイト」


 紅茶を飲むエイトにセブンスは聞いた。

「妹が姉に会いに来たらおかしいかな。しかも逃亡中なんだから、心配するでしょ? ふふ」

 白い肌に顔はこの上なく整った目鼻立ち、意志の強そうな大きくて黒い目。


 セブンスにどこか似ているが、髪は青い色で、毛先にカールがかかったミディアムボブ。どこか人形めいた雰囲気はドール特有のもの。セブンスより小柄な身体が幼さを見せ、愛らしさも持つ、その美しさは、セブンスにも引けを取らない、セブンスの妹エイト。


「現れかたが派手だな、しかもワザとらしい。その辺は姉のセブンス譲りか?」

 エイトは、紅茶の茶碗を皿に置いて、クスリと笑った。

「そうかもね。私達ナンバーズドールは、各々に違う力を持たされているけど、基は一人の遺伝子、同じ塩素記号から造られているからね。似ててもおかしくはないわね」


 セブンスはクロムと同様に、エイトが偶然に現れたとは思えなかった。 


「エイトあなたの目的は何なの? 偶然なんてありえないよね。どうやって私を見つけたの?」

 エイトの真意が解らないセブンスの顔を見たエイト。

「私ね、姉さんの事を水槽からずっと見ていた。モニターを操ってずっと見ていたの。この星の全てのカメラを使ってね。姉さんは私の事なんて、興味が無かったでしょうけど」


 海辺の夕方の強い風。

 流されるセブンスの髪も流れる中でセブンスとエイトはお互いを見ている。


「エイトの事は知らされていなかった。妹がいるなんてね。でも、あの日聞いたわシルバから。そして次のドールが完成したら、私はいらなくなるって……言われた」


 大きな瞳を柔和な表情でセブンスに向けるエイト。


「姉さんがいらなくなるって? フフ、おかしな事を言うのね。姉さんは特別なの。たくさん足掻いてもらわないと。全ての運命と感情に。それと私、見ていたよ。姉さんがお父様にシルバに何度も抱かれるの」


 クロムの反応を楽しみに笑うエイト。

 紅茶嫌いのクロムが、八杯目のコーヒーをブラックで飲み干している。


「ふう。それにしても、ここのコーヒーは美味いな」

 シルバとセブンスの関係など意に介さない、クロムが満足そうに呟く。

「豆が天然ものだからね。それ一杯であなたの月給が飛ぶわよ、クロム」

 クロムの方を見て、ほおづえをついて見たエイト。


「美味いはずだな。だが、俺の入れる戦場でのインスタントコーヒーは、もっと美味いぞ。今度会ったらご馳走するぜ」


 そう言うと、スッと立ち上がったクロムを見上げたエイト。


「いいわ。私はコーヒー嫌いだから。ふ~~ん、姉さんの趣味って、こうゆう感じなんだ」

 サングラスをかけたクロム。

「紅茶はいれるのが面倒だ。コーヒーにしとけ。うまい肉も食わせてやるぞ」


「有り難う、アンドリューサルクス。ただ、今度会うときは、あなたの死体と、ティータイムになりそうだけど?」

 苦笑いしたクロムが不思議に感じた事があった。 

「そういえばエイトはなんで俺の名前を知っている? おまえも箱入りで出たばっかりなんだろう?」


 幼なさが残る顔で違いますと口をとんがらさせたエイト。

「箱じゃなくて培養水槽! あなたの事? フィフス姉さんに教えてもらったの。知っているでしょうクロム……最凶の衝撃のドール」


「フィフス姉さん!?」


 現存するドールで一番有名な、戦いの天才と呼ばれるフィフス。

 クロム達、解放軍に立ちはだかる最凶な存在。

 フィフスの名前が二人から出て、セブンスは不意をつかれた感じだった。


「クロム、フィフス姉さんと知り合いなの? 私は聞いてなかったけどね。なんで黙っているたのかな」

 セブンスがクロムを疑惑の目でチラッと見た。

「な、なんだよ、その目は……前にちょっとだけ関わりがあっただけだ……う、セブンスその目はやめろ。大体、俺たち恋人でもなんでもないだろ!?」


「へえ、そうなんだ。確かに私はあなたの”捕虜”だし、別にいいよフィフス姉さんって、すごいボディラインだものね」

「だから違うって!」


 クロムとセブンスのやり取りを見て、微かに笑ったように見えたエイト。

 その顔を見て、フッと笑ってセブンスの肩を叩いて“行くぞ”と合図して店の出口へ向かうクロム。


「あ、そうそう。エイト、おまえちょっと幼児体型だな。ちゃんと肉は食っているか? 背は小さいし、もっと胸と尻はでかい方が男には受けるぞ。その辺は姉さん達、フィフスとかセブンスを見習えよ」


 テーブルに肘をついたままでエイトが答える、


「ありがとうクロム。自分でもとっても気にしている事を、ズケズケと言ってくれちゃって……アンドリューサルクス、大型恐竜の野蛮人! でもフィフス姉さんと、愛し合って良く平気だったわね。こうして生きている事は素直に感心するわ」


 寝た? またセブンスが疑惑の目で見たが、クロムは真剣な目でエイトを見た。


「フィフスには借りがある。いつか勝敗をつける時が来るだろう。じゃあなエイト、次に会うのは戦場だ」

 クロムが右手を高く挙げて、エイトに別れの挨拶をする。


 エイトは不思議な喜怒哀楽が混ざった表情を浮かべて、二人のモーターサイクルが、遠ざかる音を聞いていた。

 憎しみと愛しさと楽しさと寂しさが混ざった、その黒く大きな瞳に雲が写った。

 さっきまで静かだった海辺は、風が強く巻き始め、雨雲が広がり始める。


「……嵐がやってくるわ。それも銀河が揺れる程の」

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