第25話 A.D.4020.人を超える者たち
二百キロで快調に飛ばす二人。
山林の荒れた道を、この速度で会話しながら進むのは人間業でない。
「ねえクロムって、強化手術とか受けているの? ドールと変わらない運動能力。生身の人間じゃないように見えるけど?」
「そんなの受けていないぞ。多少、感がいいのと、バカみたいに身体を鍛えているだけだ」
訓練のおかげと言うクロム、でも疑問は消えないセブンス。
「この速度でマシンを操れるのは、通常の人間には無理だと思うよ」
「まあ、俺は解放軍の中でエースパイロットだし、才能あるのかもな。それかやっぱり、アレのせいかな?」
「アレって? やはりクロムはサイボーグ?」
「いや、子供の頃から、肉と牛乳大好きだったからな。一日五キロ肉と二リットル牛乳は飲み食いしていたな」
クロムの発言に人間を超えた存在であるドール、セブンスが呆れた。
「はぁ、それは人体の構造上でほとんど根拠がない話。バランスが悪すぎるよ。野菜でビタミンもちゃんと取らないとダメでしょ」
「ふん、野菜なんかは、家畜の食い物だ。人間は肉と牛乳で大丈夫なんだ」
理解できないクロムの食生活に呆れながらも、セブンスが一部だけ肯定する。
「肉ばっかり食べていると、好戦的な性格になるのは本当みたいだね」
「ほっとけ! ところで、この速度でマシンを操れるのは人でないと言ったな」
スピードメーターを確認したセブンス。
220KMで山間を走る二人にモーターサイクル。
「ええ、でもクロムは人間として、辛うじて定義できそうだけど」
「フッ、そうか。人間として認めてくれるのはありがたいが。おれ達の後ろから迫る奴はどうだ。人間なのか?」
セブンスのサングラスに。後方視覚カメラの映像が映った、そこに急激に大きくなる、一台のモータサイクルの影。
「スピード上げるぞ!」
アクセルをオンにしたクロムに頷き、セブンスもハヤブサのアクセルを解放する。
クロムのNINJAは、どう猛な音を発して、一気に三百キロを越える。
その横に、セブンスのハヤブサも並んだ。
それでも、二人の後方から、ピッタリとついてくる一台のマシン。
H社が最後に発売した内燃機関のモータサイクル、NS2000Z、1000馬力。楕円ピストンを持ち、六気筒ながら十二気筒エンジンの構造とパワーを得て、一瞬で二万回転を越えるレスポンスを持っている。
山の谷間のアップダウンを高速で抜けていく、三台のマシン。
二千年前の機械がこの世界の風を抜き去る。
全力で走る二人の目に、青く光る彼方が見えてきた。
「あれは海? まずいわ……クロム!」
セブンスの警告の言葉に頷くクロム。
貴族の住宅が並ぶ、海辺の近くまで来てしまった。
敵に発見される可能性が高くなる。
「まずいな……確かに」
クロムとセブンスはためらいながらもアクセルを戻す。
それを待っていたかのように、後方のNS2000Zが二台の間を抜けて一気に前に出る、そしてアクセルを緩め、クルッと向きを変えて二人の前に止まった。
真っ黒な皮のつなぎにヘルメットをつけた、人間を越えた者が、セブンスに話しかけてきた。
「セブンス姉さん、久しぶりね」
その声を聞いても、解らないセブンスだったが、その者がヘルメットを取った時、 それが誰であるか、どこで逢ったのか、ハッキリと思い出した。
「久しぶりね……エイト」
シルバの水槽の中で育てられていた、セブンスの妹だった。
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