第22話 A.D.4020.オレンジの時間
オレンジ色の夕暮れが広がる街からかなり離れた森の中。
墜ちる太陽が今日の終わりを美しくも寂しさを呈していた。
人目につかぬようにひっそりと立つ建物は、人間が住めそうな外観を辛うじて備えた家。
建物の中の一室でセブンスと謎の男が、ベッドに腰を下ろして座っている。
男の説明を聞いたセブンスが一応の納得を見せた。
「ふ~~ん。あなたはこの帝国ミネルバと現在交戦中の自由連邦アウローラの兵士だと言うわけ?」
大柄の男は頷いた。
「そうだ。名はクロム・サードと言う」
「クロム……信じる根拠は無いけど一応聞いてあげる、で……本当の目的は何?」
強靱な筋肉を纏った男クロムが指を指した。
「おまえだよ。セブンス」
クロムを見る美しき人形のルビーのような、紅の瞳が少し驚きをみせた。
「なんの為に? 私をさらって身代金でもせしめる気?」
「そんなもったいない事はしないさ。おまえは銀河一のドール、使い道は他にもある」
謎の笑みを浮かべたクロム。
「そう、まあいいけど……ところで、そろそろ私は眠くなったの。今日は意外とハードだったからね」
アクビをして手を伸ばすセブンス。
「そこで……このダストボックス、汚いこの部屋から早く出たい」
「うん? 寝るところは、ここしかないぞ」
「ええ!? 本気? こんな所で暮らしているの人間が?」
しげしげと部屋を見渡すセブンス。
シルバの屋敷のベッドルームと何を比べたらいいか解らない程、全てが違いすぎる。
「まあ、オレと一緒に寝れば、ベッドだけは確保できそうだな」
セブンスが首をかしげてクロムを見た。
「あなたと? 冗談……しょうがないね。隣の部屋で寝る事にするわ」
立ち上がりベッドルームの出入り口へ向かう。
「気に入らないか。おまえのような生活ができるは、限られた上級国民だけなんだがな。ほれ、これをもっていけ」
クロムが薄くてお世辞でも綺麗とは言えない毛布を投げてよこした。
「……一応……ありがとう」
それを右手に引っかけセブンスは部屋を出て行った。
セブンスの目に写ったのは。隣のダイニングは生活範囲であった事が解らない程の汚れ具合、あまりの汚れ具合にそこで眠るのも諦めてため息をつきながら、もう一枚の扉を開けて外へ出る。
「ふう、私はいったいなにをやりたいの? 本当に自由って大事なの?…教えてよ左目の人」
外はまったく光が無く真っ暗だった。
雲が早く流れ月も星も見えない。樹木が揺れて奇妙な音を出す中でセブンスは、思わず震えた。
今まで感じた事のない暗闇と自然に感じた怖さに。
昼間はなんでもなかったのに……ブルッと、セブンスが再び振るえた時に後ろから声がした。
「可笑しいだろう? これだけ科学は発展しても人は夜が怖い闇を恐れる。そこから得体の知れない何かが、自分を捕まえに来そうな感じがする。最高の技術で造られた人形のおまえも同じようだな。最高の人形が何を恐れる?」
クロムの言葉にセブンスは揺れる黒い樹林を見ながら呟いた。
「怖い……これがそうなのかな。昨日まで人形だった私には無かった感情」
クロムが素直に自分の感情を話すセブンスを見つめた。
「人形だった? マインドコントロールが外れたのか……初めて見る反応だな。ナンバーズドール、シルバが造った他の人形にも逢ったが、おまえは予想したのと違う。不思議なものを感じる……おまえの左目に宿る者のせいか。ひどく幼い子供ような」
解らないと首を振るセブンスの横に座ったクロム。
「おまえの感情は、生まれたばかりだ。色んなものを見て感じてみろ。そうすればおまえが望んでいるものも……」
セブンスが言葉を続けた。
「死に方……恋する事もできる……かな?」
「ほう、これは以外な答えだな。ところでオレはそろそろ、風邪引きそうなので部屋に戻るが……どうする?」
クロムを見るセブンスの姿は親に置いていかれる子供のような幼きもの。
昼のモータサイクルの操縦や、マシンウォリアとの戦いの痕跡はまったくない。
真っ直ぐな銀色の腰まである、さらりと流れる髪が夜風に揺れる、ドールらしい完璧な表情は消え、少し幼さを感じさせている大きくてルビーのような紅の瞳は、すがるようにクロムを見つめる。
「一人になるのが怖いのか?」
クロムがセブンスに聞いた。
首を振ったセブンスは桜色の唇をギュッと結んで我慢しようとしている。
(本当にこれがドール? 姿は人間離れして美しいが……この弱さ)
クロムが思案し、そして戸惑いを口にする。
「困ったものだ。その整った顔や身体。そして今日の戦闘能力。間違いない銀河に名高いナンバーズドールだと思うが。セブンスおまえのそんな子供のような表情を見せられたら……うーん、うまく言えないな」
頭をガリガリと掻き困った表情をした、大柄な反乱軍の戦士は横に座るセブンスの背中に自分が掛けていた毛布を広げた。
セブンスの背中に暖かい感触が広がる、感触は心にも広がった。
セブンスは立ち去ろうとするクロムの手を無意識に握る、それは怖さ、初めて覚えた感覚と、今まで誰かに付き従う事しかなかったから、一人ではどうしていいか分からない気持ちも表していた。
握ったクロムの手はゴツゴツして大きく、無骨でそして暖かった。
セブンスが初めて感じた”人のぬくもり”
自分を見たセブンスの左の目の奥に輝く、不思議な光がクロムを引き込む。
(戦いに疲れたのかクロム……それかセブンスに惚れた? バカバカしい)
くだらん、クロムは立ち上がった。
「オレが外で寝るよ……ベッドは使っていいぜ」
セブンスは、クロムの手を握ったまま微かに笑って首を振った。
「ううん、いい。一緒でいい……傍にいてクロム」
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