第20話 A.D.2040.消える未来
哲士の気配。
いつもならすぐに「お帰りなさい」って言えるのに、七海は動けなかった。
暗い海を見ている七海を見守る哲士の暖かな視線。
世界で最も愛しい存在。
「ふぅ」小さく深呼吸して自由を取り戻す七海は振り返り笑顔で言えた。
「お帰りなさい哲士。よく、ここが分かったわね」
「ふ、匂いを追って七海の居場所を見つけるのさ。俺は肉食恐竜だからな」
七海が見せたぎこちない笑顔を感じたのだろ、いたって明るく哲士は最愛人に素直な笑みを見せた。
「ふふ、沙耶に言われた事を根に持っているの? 」
まさか、首を左右に振った哲士。
「まさか。逆に最強の肉食系に例えられて俺は嬉しいよ。それよりまた見たのか?」
哲士の気遣いに黙っていようとした言葉が口から出た七海。
「そうなの感じたの。ごめん。いつも、こんな事言われても困るよね。具体的でない色彩の予感なんて」
七海の体に流れる陰陽師の血なのか、時々、感じる未来への予感。
それは予知と言えるほどの情報はない。だが、先に起こる事が七海にどんな感情をもたらすかそれだけはちゃんと分かった。
「光が色が見えなくなるの。とっても暗くて凍えるほど寒い。初夏で太平洋はこんなに暖かいのに真っ暗な海は先が見えない。どうしたんだろ、何が起こるの」
「七海!」
哲士が名前を呼ぶと七海の意識が哲士に移り、心が落着くのはやっぱり彼が好きだから。
自分を呼ぶ声にすがるように手を差しのばす七海。
「今の気持ちを伝えて。私も同じだと思えるように。遠い未来に今が幸せだった思い出せるように」
哲士が七海を見つめる。
「余計な事は言わない」
「うんうん」頷く七海。
海の音に混ざってかすかな泣き声が周囲に散らばる。
「二千年先でも七海と一緒にいる」
うんうん、哲士の言葉に涙を拭き予感について話を続ける七海。
「一人になるわ」
七海の二人の別れの予感に哲士は大きく首を振った。
「一人? 俺たちはずっと二人でいるとそう決めただろう? それとも新しい恋人でもできるのか」
「いいえ、心はつねに共にある。ならば……どんな困難も乗り越えられる。二人ならね。でも一人になり孤独と死が現れる……オレンジ色が完全に消えて……」
途中まで話した七海は我慢できなくなり哲士の元に走りこむ。
太い腕と厚い胸が七海を囲み心に一筋の希望を与えてくれる。
そして決心も。
七海は深く自分の心に刻むように言葉を繋いだ。
「もし……あなたを失ったら私は取り戻す。どんな方法でも。それが世界を滅ぼすものだとしても」
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