第19話 A.D.2040.消えゆくオレンジ色

誰もいない海辺に立つ七海。

会社の帰りに暮れかかる夕日を見たときに感じられたオレンジ色の示唆。

車でいつも海を見る突きだした崖の上へと進む。

風は強く潮の香も強く匂う中でオレンジ色の光が消えていく。

全てが真っ黒に塗りつぶされる。

それは視覚ではなく、身体の全てが感じる未来への不安感。


七海には未来を予感する力があった。

それは形ではなく色彩の姿をとる。

そのために予言のレベルには達していない。

具体的に起こることを言い当てたりはできない。

 だが、感じる吉凶の予感のイメージは、事を迎える寸前に七海にデジャブを見せた。


どんなつらいことが待っていても、色が光が消える事はない。

不安の色の先に新しい色が、心が抱くどんな不純物でも消してくれる。

未来に起こる出来事は、不吉だと察知したイメージも何とかなると。

いつもくるこの崖の上から海を見えれば安らぎと希望を得られた。

でも今日は……なぜか心が落ち着かない。


「どうしたんだろう私。もう少しだけここにいようかな」

 オレンジ色が消えて七海は急速に闇に包まれる自分の震える身体を抱きしめるように、海風の寒さと不安に耐える。


 初夏にさしかかる夕方だ。いくら海風が強いと言っても凍える季節ではなかった。

 大きな海はいつも穏やかな風を与えてくれるのに、今日は体を揺さぶり心を凍らせる。


 そして太平洋は真っ黒に閉ざされ、沖まで見渡す事が出来ない。


「この先に何が起こるというの……私では手におえない未来は」

 凍り付き立ち尽くす七海に暖かさを与える声が聞こえた。


「さがしたぞ七海。やっぱりここにいたか」

 哲士の声だった。

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