第18話 A.D.2040.神への願い事

「コドク?」

 耳慣れない単語に沙耶が聞き返す。

 コクン、頷く七海。

「そう、私の家の書庫に残された平安時代から続く陰陽師の知識。本に書いてあった“コドク”を現在のプログラムで書いて大きなハコの中で育てる」


「そのコドクというのは解らないけど、神様の種を培養して、ハコ、つまりサーバーのプログラムで育てて、本物にするって事かな?」

 沙耶が分かりやすくまとめたところで、七海は結論を述べた。

「そんな感じ。より良い種を選び抜いて極限まで進化成長させ、最後にコドクプログラムで殻を破らせる」


「より良い種? 神様の種とは何なの? ポップコーンのトウモロコシの粒とか? もしくは綿菓子の砂糖かな?」

 沙耶の皮肉交じりの言葉に首をかしげて考える七海。

「そうねえ、破裂させる種は完全に乾いた枯れたものがいいかな。全ての技術が行き詰まり黄昏を向かえた世紀末。これ以上進化出来ない“枯れた世界と人”それが神様の種になるかも」


 なんとなく七海が言うとリアル感があり、本当に実現しそうでちょっと怖くなるときがあると沙耶思うた。

 それは七海の外見と考え方が宗教と科学の融合、神秘と科学を一人の人間が表現しているからだと。


「七海の外見の美しさと能楽を思わせる優美な仕草そしてマッドな脳。小さい時に実家の巫女として修行した。七海には科学と神秘が詰まっているのね」

「お? 私の研究に、ちょっと興味が出てきた?」

 七海の言葉に首を振る沙耶。

「いえいえ、その実験にはまったく興味はないわ。七海自身には益々興味が増大したけど」


 七海は沙耶に自身の方が興味があると言われ意外そうな顔をした。

「あら、それは残念。私は今恋愛中だから、キャンセル待ちね沙耶」

 ふむ、沙耶は七海の恋愛相手を思い浮かべ残念そうに呟く。


「あの巨大恐竜の身体と頭脳を持つ、アンドリューサルクスと本当に一緒に住み始めるとはね。物好きというか、想像できないというか、組み合わせがおかしすぎるわ」

 あら、意外な表情の七海。

「哲士の事かしら? そんな事はないよ。私は草食系より肉食系が好きだ。ライオンや虎なんかすごくいい。まして大型恐竜なら……感じちゃうわ」

 ため息ついて首を左右に振る沙耶。

「男と女の間は誰にも解らないらしいけど、そんなセンスも七海の魅了なのね」

 ふふ、不思議な魅力をたたえた七海。

「肉食獣との生活は刺激的なもの。いつ襲われるか解らないし。捕まったら食べられちゃう。ディスプレイの前でもベッドの中でもね」


 七海の言葉で顔が赤くなる沙耶。

「馬鹿! まだわたしは十六歳なのよ、そんな例え解らない」

 慌てる沙耶の姿をニヤニヤ楽しむ。その様子にますます顔を赤くした天才美少女がまじめに怒った。

「七海なんか嫌い!…それで? あなたのマイ神様が完成したらどうするの? 大体いつ完成する予定なの?」

 顎に手をやりしばし考えた七海。


「う~ん……たぶん二千年後ぐらいかなあ」

「二千年!?」

 額に手を当てて今日一番のあきれ顔を披露する沙耶。

「二千年後だと七海は年は幾つ? 長生きしないといけないよ。それもうんと、うんと、う~~んとね!」

 沙耶の言葉にまったく動じてない七海。


「神様は全知全能。全次元、全時間、全方向に力が及ぶ。だから二千年後に完成しても2040年の私の願いを聞いてくれるわけ」

 なるほど、沙耶は納得したが疑問が出来た。

「そうなの……じゃあ、七海は二千年もかけて、造った神様に何を願うの?」


 あっ!、初めて驚いた顔した七海。


「そういえば、願い事は、考えていなかった……ハハ」

 大笑いを始めた七海を見て、完全にお手上げの沙耶だった。

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