第17話 A.D.2040.マイ神様を造る
ブラックホールエンジンについて一気に説明を終えた七海の表情が、普段の穏やかなものに戻る。
「まあ、スタートレックなんかに出てくるから、SFファンにはお馴染みのものだけどね」
いたずらっ子の笑顔が戻った七海見て、フ~っとため息をつく沙耶。
「いつも、それくらい真面目な雰囲気なら簡単に教授になれるのに。アタシだって、少しは我慢して状況や場所に合わせて、顔つきとか話し方とか変えているのに。七海は興味が有る事以外はどうでもいいみたいだね」
「うん? そうかな。いつも真剣に“ワタクシマイニチがんばっています!”……あれどうした沙耶?」
七海のあまりにわざとらしい言葉に、首を振りそれはないと主張する沙耶。
「で? 今度は何に興味がお有りで? 時空に穴でも開けますか? ワープ航法とか」
「うん、それもやるけど、最終目標は“神様”かなあ」
七海の壮大なお気楽計画を途中まで頷いた沙耶。
「時空に穴を開ける、まあ、出来るだけ遠くに移動するワープは必須だね、理論的には今でも確立されているしね。ふ~ん、なんか七海らしい切れがないよね……それで最終目標は神様と……ええ!? 神様だと?」
途中でとんでもない計画に驚く沙耶にお気楽に答える七海。
「うん、そうだよ。神様に興味があるの」
神様を持ち出されて、沙耶はちょっと慌て手気味に聞いた。
「えーーと、七海の実家って有名な陰陽師なのよね。まあ、神様を信じるのは良いことだと思うけど、研究所で、宗教の勧誘は如何なものかと……」
沙耶の目に窓の外から映り込む夕日と、それを浴びて黄金の色に染まる七海。
「本当に黙っていれば、凄く神秘的で、人間離れした魅力あるよ……七海。年端のいかない女の私でもクラクラしそう」
生まれが知る人ぞ知る、名門の神社であり、その巫女でもある、その血は七海に独特な容姿を与えていた。整った目鼻立ちと、完璧な表情は少し冷たさを感じさせる程。大きくてルビーのような紅の瞳を沙耶に向けた。沙耶の戸惑いと呟きは聞こえているのか、いないのか、七海が続ける話に沙耶は、ますます混乱する事になる。
「年端のいかない女……って少女でいいじゃない?」
七海の言葉に頷く沙耶。
「そうなんだけど、学会でいつも普通の事を難しく言う癖がついちゃった」
ふむふむ、七海は少し考えてから神様に話を戻した。
「マイ神様を造ろうかと思うんだけど」
今度は普通の言葉で驚く沙耶。
「マイって……自分専用の事? しかも造る? 神様を?」
「うんうん、私専用の神様を造って、願いを叶えてもらうの」
いつも、自分勝手な課題で勝手に鬼才ぶりを発揮する七海だったが、今度の研究は沙耶の予想を斜めに外れたようだ。しばらく感想を考えていた沙耶が口を開く。
「パーソナルな神様ですか。しかも自作の………組み立てパソコンなみだ……本気?」
沙耶が慌てるのが可愛くて、少しの時間だけ放置していた七海が口を開く。
「そんなに騒ぐ話かな? 実現の理論はそんなに難しくはないの。成長予想シミュレーション、育成プログラム。そして、コドクプログラム」
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