二十一世紀の生活

第16話 A.D.2040.天才と鬼才のエンジニア

 二十一世紀の中盤にさしかかる現在でも最高峰のコンピュータたち。

 整然とサーバーとクライアント端末が並ぶ巨大な真っ白なフロア。


A.D.2040.

 広大な施設に入れるのは限られた人間だけなのは、界最高峰のスーパーサーバー”スサノウ”が設置されている部屋だからだった。


「ところで七海助教授はアタシに内緒で何をしている? また趣味に走ってるじゃない?」

 いきなり核心をつく言葉に、ギクリとしてつくり笑いをした七海。

 当然、そんな怪しげな態度を見逃してくれるわけもなく……腕組みをする小さな妖精の沙耶に一応言い訳してみた。


「え~と、それはね、今回のプロジェクトで使用する素粒子の仮説検証をプログラムにしているの……っていうのはどうかな?」

 ニヤリ、と笑みを浮かべた沙耶。

「へぇえ、そうなの。なら、スサノオの運用PM(プロジェクトマネージャー)にも報告済みだよね? 一分の使用料は一万ドルで非ノイマン型高密度ブレイドサーバの”スサノウ”を昼夜連続運転だからね」


 イタズラを見つけられた子供のように「ヘヘ」と頭をかいた後に七海は両手を合わせて沙耶にお願いした。


「沙耶! お願い! 見逃して。 ちょっと面白そうなシステムを思いついたの」

 いつもの事に執着しない七海と違う様子に、必死さに興味がわいてきたような沙耶。


「ふむ。七海が面白いと言うならならアタシも興味が沸くな」


 世界でもトップクラスのコンピューターのSE(システムエンジニア)である沙耶。設計したスーパーコンピューターであるスサノオは色々な計画に使われる。

 しかし、七海の考えるスサノオを使用する理由は沙耶でも驚くものが多かった。


 興味津々で沙耶が聞いた。

「前回は、M・B・E(マイクロ・ブラックホール・エンジン)の設計書だったわね。学会では古典的なSFファン以外には、いまいち受けてなかったけど」


 七海の顔が急に表情を消して学会で論文を読み上げる学者ように説明を始めた。


「M・B・Eは現代の科学で想像される“最高のエネルギー変換効率”のエンジン。中心にある超小型ブラックホールへ燃料を投下すると、ブラックホールへの落下時に60%、吸収時に40%が代謝され、合計100%の効率でエネルギーに変換される。M・B・Eのパラメータは質量・電荷・角運動量の3つで、角運動量が一定を超えると、事象の地平が開いて四次元が現れるとか、特異点が現れて宇宙がえらい事になるとの説がある」

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