第12話 A.D.4020.恋する人形

 シルバをバルコニーに置いたままで窓から部屋に入り、奥の部屋に進みクローゼットを開けて着替えを始めるセブンス。

「着せ替え人形だったおかげで、服だけ沢山ある……でも、初めてね。自分で選ぶのは……迷っちゃうな」


 鏡に写った自分の姿を見つめるセブンス。

 レースがついた黒い下着にフレアスカートとピンタックの入ったブラウス。白いあみあみのストッキング。短めも赤い皮のジャンパーを羽織った。


「初めて選んだからちょっと変かな……でも、服を選ぶのは楽しい~~、あっ! 逃げる事も忘れないようにしなきゃ」


 衣装棚から動きやすい白い皮のライダーシューズを出し、手にはやはり白い皮の手袋をチョイス。

 黒い小型の銃を腰のポケットに入れて、最後に濃いブラウンのサングラスを胸に差し込む。


 バルコニーに戻ったセブンス、座り込んでいるシルバに別れを告げる。

「もう行くね。下の倉庫のマシン借りていい?」

 言い終わったセブンスの後ろに気配があった。

 回り込んだガードマシンがブラスタガンをセブンスの後頭部へと照準を合わせていた。


 ガードマシンは戦闘用に造られたドール。

 今、セブンスが対峙しているのは二人。

 名前はなくシルバにはA、Bと呼称されている。

 ガードAの赤いレーザーサイトが、セブンスの銀色に輝く、長い髪を照らす。


 ブラスタはエネルギーを高熱源体に変換する装置。

 レーザーのように高熱の光の弾を、撃ち出したり、空気を暖めて飛行するなど、汎用性が高い。

 スパイク(剣や斧など物理的な武器)に付加して切れ味を上げるなどの使い方もある。今ガードマシンが構えるブラスタガンは高エネルギーの光弾を打ち出す。エネルギーカートリッジがあれば無限に光弾を打ちだせ、その威力も自由に調整可能。


 セブンスを捉えたガードAのブラスタガンの出力メモリは最大で、当たればセブンスの頭は蒸発する。


「動くなよ……」

 セブンスの仕様を知っているガードには華奢な外見への油断は完全に消えている。

「さあ、ガンを渡せ! 下から滑らせて、こちらへ放て!」

 その言葉にセブンスはゆっくりと振り返る、

 しかし止まらずに、ガードAの方に近づき始める。

 セブンスの額に、レーザーサイトが赤い点を写す。

「おまえ……死にたいのか……止まれ!」

 微笑みながらガードAに近づくセブンス。

 危険度を考え射殺が妥当と判断したガードAが引き金を絞り始めた。


「馬鹿者! いったいセブンスに、幾ら金が、かかっていると思う!?」

 自分の主人であるシルバの制止の言葉にマインドコントロールが施されている為に”主人の命令に服従”それが一瞬だけ、ガードAの動きを止めた。


 ガードの優れた戦闘視力を持っても見えなかった程の緩急をつけ、セブンスの右足がショートに素早くガードAの首筋に放たれた。

 衝撃で後ろに下がるガードAとの間を詰めて、そのブラスタガンを手刀で弾き飛ばし、ガードAが体勢を整える前に右の襟を掴み、袖を左手で取る。右足でガードAの軸足を刈りそのまま前に投げ込む。ガードAの身体は放物線を描き、そのまま頭から、大理石の床に叩きつけられたて白い大理石の床が赤く染まる。

 素早くガードBがブラスタガンを構えたが、セブンスの動きは早く大きく円を描く脚が放たれ、首筋を押さえながら最後のガードマシンも後ろに倒れ込む。


 セブンスのあまりにも高い戦闘力を見たシルバが驚いている。


「……おまえの運動能力、反射神経が戦闘用のドールを越えるのは解る。だが実戦は別だ。今の動きはどこで覚えたのだ? 戦った事など一度も無いのに……」

 セブンスはガードの持っていたブラスタガンを拾いシルバに振り向いた。

「私の左目に宿る人、その人が教えてくれる……いや感じるの。その経験と知識」

 自分の左目を指差すセブンス、そこには微かに光る小さな星が写っていた。

 微かだがはっきりと意思を湛えた瞳を見てシルバが口を開く。


「良く解ったおまえの優秀さ。そして魅力。おまえの左目の奥に宿った微かな輝き……その不思議さが人を魅了する。もう、十分だろう? やりたい事が出来たと言ったが私の力でそれを叶えてやろう」

 セブンスは静かにシルバに近づいていく。

「私のやりたい事……」

 セブンスが呟くとシルバはせかすように続ける。

「そうだ、おまえのやりたい事をなんでも叶えてやるぞ」


 背中に二丁のブラスタガンをしまい、シルバの横まで歩いてきたセブンス。

 バルコニーの手摺りに飛び乗り膝を抱える。

 その瞳は青く輝く海、いやその先を見つめる。


「私のやりたい事は“恋する事”」

「なんだと!?」

 シルバが驚く。

「恋をして死に方が決まったら、遙か遠く旅に出るの……瞳に宿る人の願いを叶える為に」

 セブンスが指す左目の星が示す言葉を聞いて手が震え始めるシルバ。

「ゆ、ゆるさん! 恋だと……それだけは絶対に許さん!」

「なにを……そんなに怒っているの?」

 セブンスが不思議そうにシルバを見た。

「愛する娘がどこぞの馬の骨と愛し合う? その為に旅に出る?」

 シルバが立ち上がった。

「絶対に許さん! おまえは銀河一のドールなのだ! 私の物なのだ!」

 シルバが自分の左手の金の豪華な腕時計のダイヤルに触れた。

「おまえが、他の男と愛し合うなら……どこかへ行ってしまうなら……」

 近くで振動が起こった。何かが、高速で近づいてくる。

「おまえを壊してしまおう……そして私の横で、ずっと暮らすのだ、その美しい微笑みを見せながら……首だけでな!」


 セブンスの耳には微かな高出力モーターが出す、高周波が聞こえる。


「これは、戦闘歩兵のモーター音!」

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