二千年後人形の覚醒
第11話 A.D.4040.光をシグナルを得る
二千年後の未来でも輝く太陽、光は美しい。
バルコニーから入る強い光を受けたセブンスの瞳と長い髪はさらに輝き、着ている服は透き通り水の精霊ウンディーネの様相を見せる。
A.D.4040.
その姿に昨晩の情事を思い出して醜悪な老人の顔になったシルバ。すぐに、自分でそれに気づいて顔つきを“父親のような”偽りの穏やかなものに変える。
「ご覧セブンス。この素晴らしい自然と人間が受ける感性の豊かさを。暖かい、寒いなど、動物並みの反応しかない者には必要無いものだ。テクノロジーの進化が止まり限られた星しか所有できない人類には、資源と文化を守りながら高い感性でその素晴らしさを感じる、我々のような高貴な者の導きが必要不可欠なのだ。それは神から与えられた才能と責任。だからこそ我々貴族は最高の物に囲まれている必要があるのだ」
シルバの言葉に微笑み優雅に寄り添うセブンスだったが、バルコニーを歩いている途中で、二、三度、目を瞬かせて左目を押さえ急にその場に座り込む。
完璧なはずの人形が予想外の動きをしたので慌てたシルバは警護の者を呼び、それからセブンスに近づいた。
「どうしたのだ!?」
左目を押さえて痛がっているセブンスの姿に誘われたシルバは、乱暴にスカートに手を入れて、痛がる人形の白く柔らかな脚を撫で始めた。
「お父様、光が……私の未来を導く光が見えました」
太股まで手を伸ばしその感触を楽しむシルバが、セブンスの予想出来ない言葉に首を傾げる。
「故障か? 今日の夜は私主催のパーティがある。それまでに修復せねば……寿命は短くなるが多少の無理も仕方がないな。エイトはロールアウトが近いし新型ドールスも完成した。だが社交界ではおまえの美しさが必要だ頑張ってくれよセブンス」
醜悪な老人の顔でセブンスに触れ続けるシルバにセブンスが口を開いた。
「気持ちが悪い」
シルバは空いている手でセブンスの顔を引き寄せる。
「もうすぐ技術者が来る、もう少し待ちなさ……」
シルバの言葉が終わらないうちに、セブンスが再び口を開いた。
「気持ち悪いその手を離せ」
セブンスの言葉に、言葉を詰まらせるシルバ。
「お、おまえは、今なんて言ったのだ?」
セブンスが顔をあげると左目の奥に光が宿る輝く小さな星が見えた。
「汚い手をどけろ!」
スラスラと出てくる下品な言葉にビックリして固まるシルバ。
「おまえはそんな言葉をどこで覚えたのだ!? 学習などさせていないぞ」
「う~ん」人差し指を頬に付けて考えていたセブンス。
「なんか急に浮かんだ……ところで」
セブンスはまだスカートに手を入れているシルバを見て溜息をつく。
ガツン、セブンスの肘鉄がシルバの頭にヒット。
「一回言ったらちゃんと聞けよ……ぶつよ!」
セブンスのマジ顔に白い太ももから手を離し、後退るシルバを追い、バッチン、今度は平手で思い切りシルバの頬を叩く。
「う、今はちゃんとおまえの言う事聞いただろ? 何にもしてなかったぞ!」
パーン、セブンスが微笑み、また平手でシルバを叩いた。
またも学習させない行動をしたセブンス。しかも人間を攻撃した。
「暴走したのかセブンス?」
主人を攻撃するなどマインドコントロールが外れて暴走しているとしか考えられない。身の危険を感じて小さな叫び声を上げ、後退るシルバだがすぐに背中がバルコニーの柵にあたる。その先は十数メートル下の広大な庭。
「セブンス急にどうしたのだ? まるで人格が入れ替わったようだ……父親を主を忘れたのか?」
セブンスはシルバの先に輝く海を見ていた。
その瞳に不思議な輝きが映り静かに語り始める。
「さっき、私にお願いする人がいた。願いは左目にビジョンとして浮かんだ。でも私は言った“私は人形なの何も自由にならないわ。あなたのお願いは聞けないの”そしたらね、その人が大笑いした。私の脳が揺れる程に笑った。それから左目に宿った人は教えてくれた自由になれる方法」
セブンスは異常な行動を見て恐怖がわき出るシルバに、今まで見たこともない表情を見せる。
「自由に生きる? そんなの無理だ、生まれる事だって選べないのに“自由に死になさい”死にざまは自分で選べるからとね」
セブンスは怯えるシルバの前で膝を抱えてしゃがみ込む。
「私はあなたに造られた。そして人形だからあなたの玩具でいるのが、あたりまえだと思っていた。でも違うみたいなの。だから行くね“自分の死に方を見つけに”」
ここまで黙って聞いていたシルバが怒りを見せる。
「私から離れるつもりか。この不良品め! 許さんぞ。おまえに辱めを与えてやる!」
セブンスはいつもの完璧な人形の表情を崩した。
「あら、面白そうね。どうぞやって見せて。ただ、私は膨大なお金が掛かっている……そんな風に言ってなかった?」
ウィンクするセブンスは人間のように唇に笑みを浮かべた。
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