第9話 A.D.2040.千年の恋

「夢が無いなぁ~~そんなもんか? 進んだ科学なら魔法のようにエネルギー問題も解決されているだろう」

 うん、うんと頷いた七海。

「ブラックホールエンジン、例えば木星を米粒くらいに圧縮して質量崩壊を起こさせる。そのエネルギーは最近実用化しようとしている核融合の数十の二乗倍の効率で、人類がその種の寿命を全うするまで、エネルギーの不足なんて無い世界を提供してくれるはずね……今の科学でも理論的には出来そう」

「そうかあ、そうしたらガス田堀りのオレも失業かあ」

 哲士が少し寂しそうな顔をした。


「なにその顔。ふぅ、深海でガス田の掘削なんて危険な仕事が好きなのあなたぐらいだから……それにそんな事にはならないって。理論だけでは達成しないものよ。なんでも有りのファンタジーの世界は残念ながら来ないのよ。たぶん」

「たぶんって、なんだ? 銀河大戦は起こるのか?」

 哲士の「どうしても宇宙艦隊を指揮したい!」の志を受けて七海は答える。


「人の心が科学が今後どうなっていくかと重要な繋がりを持つと思うの」

 科学者の七海が科学と一緒に術式をオカルト的な技術を研究するのは、科学が進んだ未来が豊かな生活を幸せを生むのか疑問だから。

 超ハイテクが全ての人の願いを叶えて必ずしも不幸を消し去れるかは分からないから。


 エネルギーと食糧問題や病気や人が寿命をクリアした後に待っているのは何なのか……人間が持つ好奇心と欲求には際限がない。

 七海は科学で出来ない事には神秘世界でさえ混入したいと思っている。

(確かに遠い未来はどうなるのか分からない誰にも)言葉を止めて考えていた七海は結論を述べる。

「宇宙艦隊や巨大ロボットは有るかもね。今の科学の限界は神秘的なもので新たな技術を生み出すかもしれないわ。ただ私達が生きている間は無理だと思うけど、それこそ数千年もの時間を必要とするじゃないかな……うん?」


 七海に哲士から視線が送られていた。

「何見ているのよ人の顔をジロジロと。ちょっと話が長かったかな?」

 首を振り真面目な視線を七海に送る哲士。

「科学と神秘世界の融合って、おまえみたいだなと思ってさ」

「フフ、そうかもね」


 七海の生家は神社で代々神秘世界を生業としていた。七海本人は術式その流れを受けながらも科学を生業としている。

 子供の頃から見てきている神社の神秘世界は確かに有ると感じているし、自分の用いる科学は未来へ続く確かなものだとも確信している。

 二つの境目を外して双方のタブーを無くし研究を進めれば光の速度を超える宇宙船どころか、神でさえ作り出す事が出来るかもしれない。


 でも人には領分がある。


 今、七海が考えている計画も実行される事はない。なぜなら彼女は強欲ではないと自分で思っているから。好きな仕事が出来てなにより好きな人と他愛のない会話を早朝から出来ている。


 光の速度を越えたり神をつくる必要はない。


 うん?、七海が気が付くと哲士の顔が目の前にあった。

「七海がさっきこの映画で理想的な人間を作る話をしていたな。オレの理想はここにいる。それは科学で造れるはずもない。七海おまえは奇跡的だ」

 ドキリ、七海もこの子供と野獣が同居する男に惚れている、科学ではとても説明できない彼も奇跡でこの恋は特別。

 七海は目を閉じて静かにゆっくりと答える。


「千年の恋。これは奇跡的な二人が紡ぐストーリー……終わりはない……いやおわらせない」

 哲士の太い腕に抱かれ七海の心と身体に愛しさが充満していく。

 哲士に逢うまではこんな事は無かった。自分が女だと意識する事も恋だの愛だのまして千年の恋を望むことなど。

「いつも……こうなっちゃう……ね。自分がメチャクチャ」

 ソファーに寝かされた七海が見上げる哲士が七海の思いを代弁する。

「俺はいつも七海と一緒にいたい。その唇、その身体に触れていたい。死ぬまで……いや死んでも」

 七海は目を開けて哲士を愛おしそうに見て全身の力を抜いて、彼に全てを委ねた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る