第7話 A.D.2040.二十一世紀のSF

 七海は仕事前に早起きして大好きなSF映画を見て現実世界から遠ざかっていたのに、予想を遥かに超える時間に起きてきた哲士の騒音に、半分くらい飲んだビールを横のローテーブルに置きながらため息をついてからリモコンの一時停止のボタンを押す。

「哲士……うるさくて映画の内容がさっぱりわからない。ふぅ埒が明きそうもないなぁ。仕方ない」

 七海は今度はちゃんと彼に振り向く。

 既に十本目の缶ビールを飲み干した哲士が嬉しそうに七海の顔を見る。

「お、ついに映画に飽きたか? オレと遊ぼうぜ」


 哲士が総合格闘技の選手のような獰猛な身体をしているのは、強靱な身体が必要な仕事についているからだが、その太い首にはゴツイが愛嬌のある顔が付いていて今、七海を見つめている。

「私が見ているのは映画よ。SF映画。これでいいかな!?」

 短い七海の答えに意味が分からない哲士、いや元々映画鑑賞の妨害がメインなのかもしれない。

「映画だって!? SF!? そんなものつまらないんだろ? ……ふ~~ん。SF映画ねぇ」

 七海は「あんたが邪魔なの」意を込めたサッパリ返事だったが、まったくその意を酌まずに気持ちが入ってない相槌をうつ哲士。


 七海は残ったビールを飲みながら、たぶん”しても意味”がない説明をした。

「えっとね、今から二千年後に文明と科学技術が限界まで発達するの、そして人間が新しい人間を造り出す。まあアンドロイドみたいな感じで顔やスタイル、身体能力までを理想的に美術品みたいに造れるストーリー」

 七海を見る哲士の視線に気づく、なんか映画鑑賞が無理矢理に終わらせられそうな予感がしたので無視してTVの方を向こうとする。

 もちろん、七海は哲士のこと大好きだが

(こんな早朝からは……)と思っていた。


「理想の人間ねえ。エッチとかも理想的なのか?」

 ヤッパリ、と七海がうなだれる

(男は朝から元気らしいけど、女はムードとかも必要なのだ)

 七海は心の中で思った。


「ふ~ん、それで、面白いの? 映画」

 気持ちの入ってない、どうでも良い同じ内容の質問にやっぱり説明しても意味がなかったと七海はガッカリする。哲士は工業系大学出身で最先端の技術を用いた仕事をしているのに未来の科学とかまったく興味がない。

 実戦タイプの技術者であり現場ではチーフで現場を指揮する立場だから、徹底した現実主義なのかもしれない。


 ディスプレイに振り返るのを止めて哲士を見た七海は動画について続けた。

「あなたには興味が無いと思うわ。この映画はSFと言ってもスペースオペラのたぐいでね。貴族とか煌びやかなロマンチック系は哲士はダメでしょう? ゆっくり一人で見たいの。SF大好きだから」

 やはりどうでも良さそうな哲士に、つい無駄な発言をしてしまう七海。


「充分進んだ科学は魔法と見分けがつかない!」


 格言めいた言葉に少し興味が出た哲士。

「なんかカッコいいな。それは誰の言葉?」

「アーサー・C・クラークの三法則よ」

 著名人の有名な言葉だが哲士はSFに激しく興味がない

「それ誰? 三法則ってなに?」

 まるで子供のように何? 何故? と繰り返す哲士に降参気味の七海。


「高名なSF作家の言葉よ、大昔のね。その人が言っている3つの法則があるの。その一つが、あんまり未来の事を考えるとSFも剣と魔法のファンタジー世界と変わらない、そんな意味」

「そうか~~。全然、意味が分からんな」

 七海はため息をついてから言葉を返す。

「関心ないよね~~そうね、例えば江戸時代の人からこの時代2040年を見ると、弾道軌道の高速旅客機、リニアモーターの鉄道、核融合……そしてあなたの仕事の数千メートルの海底から発掘、凍ったメタンを掘り出して燃料に使う。その全てがまるで魔法のように見えるでしょう」

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