第3話 A.D.4020.セブンス
今日のパーティの主役は生まれたばかりの一人のドール。
その名は「セブンス」
透明感を見せる青いドレスは、それ自身が光を受けずとも輝き、見る位置により微妙に色を変えて、着ている者を光と色で最高に演出する。真紅の唇大きく開くルビーのような紅の瞳、空中に流れて輝く長い銀色の髪。見る者全てが引きつけられる姿から、心地よい声が程よい音量で発せられる。
極めつけはいかなる時でも、優雅でしなやかな、まるで能の舞台のような動き。人類の最高美術が“人間の身体を使って”表現されていた。
その制作費は小さな星が軽く買える程だった。
完璧な美しさと優雅な動き。セブンスの作成者、父親でもあるシルバは嬉しそうだった。セブンスとシルバの登場で会場の全員が立ち拍手を送る。拍手を受けて、侯爵シルバの七人目のドールは、静々と会場の中央まで進み華麗に会釈をした。
毎日のように行われる、貴族による豪華なパーティ。それは、数百億の星の民の忠誠と労働により、実現化可能なもの。この銀河を治めるミネルバ帝国、一握りの貴族が全てを持ち、そして全てを支配する。
……二千年前宇宙に出た人類は「高い理想と犠牲も厭わない強い意思」で銀河を新たな生活の場とし広く切り開いてきた。
しかし全ての技術が最高点に達した時、無限の宇宙が実は到達出来る範囲が限られた「閉ざされた空間である」事を知る。
二千億まで増えた人類に大きな落胆が生まれた。
人々に閉鎖感が広がり心の渇き「退廃」が広がった。
今だけの快楽を求める人々、希望を無くした人々、そして「枯渇する」全ての資源「恒星間航行ジャンプ」が可能になった現在も飛べる限界値に達した人類は自分の銀河さえ越える事は出来なかった。行ける範囲が決まった瞬間から全ての資源は限られた有限のものに変わり、限られた資源を有効に利用する為に民主制は捨てられ強制力のある貴族政治が求められた。
宇宙はフロンティアではなくなり人類は未来を失った。
強まる一部の支配階級の力、太古の貴族主義が蘇り、コルセットで身体を変形させその美しさを競った地球の中世にまで文化は後退。
……そして西暦四千年。
人類が次に進めるかこのまま滅ぶのか「選択の時代」であった。
人の種としての可能性が試されたこの時代は、滅んだ古代の文明がそうであったように、文化、技術、そして人が熟した桃のような甘美な匂いを放つ。
たとえそれがほんの一瞬だけのものだと、人々は感じながら……も。
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