世迷い言

ex-01-01 豊玉二年：２０２０年７月２０日 ２０２０東京オリンピック 真実

　２０２０東京オリンピック開会式を迎えた、今日豊玉二年：２０２０年７月２０日の、ここ全貌が新緑の縞が波状で囲むゲーエムペー・インターナツィオナル・ゲーエムベーハー設計の新国立競技場には、日がやや傾きかけるも幾つかのコンペティションが進み、開会式時間前に何時でも気軽に入場へと配慮が進む中、開会式スタートの２０時に臨む。

　新国立競技場の前に一際連れ立つうら若きと見られる女性が二人。サマーピンクドレッシーの出で立ちに、３Ｄプリンターでも生成出来るかどうかの真っ白いショールと、対になる真っ白な大日除け帽子を深く被るは歌姫と恋姫の謎の姉妹。

「オンラインのディープサーチは終わった様だね」

「これからペアリングしているマニューバの錦糸による秘匿回線開始に入りましょう」

　見る程に歌姫と恋姫に薄く伸びるは金色の髪の毛より細い錦糸が上空より繋がるままに

（令和世界は新型コロナウイルスで瀕死だけど、豊玉世界は順調そのもの。まあ、２０１８年の朝鮮戦争勃発のち中国の朝鮮半島横奪関連の暴徒紛いも、各国に難民している現状ではオリンピックで騒げないか。要所のデモ禁止は妥当だね）

（本当に良いのかしら。令和世界より豊玉世界より選択するなんて。時間管理局の申し出そのままに、聖院も了承するなんて）

（仕方無いだろう。元号改正の準備段階よりゆっくり並行世界が枝分かれしてのこれだよ。これは私の職務上ままある事だよ、救われない世界の延伸としての枝分かれはさ。何よりこちらの豊玉世界での改元祭典式ではソウルブレード五振り奉天したから、バチッとはまちゃったし、こちらが正道だよ）

（そこに中華帝国の実際の思惑は無いのかしら。未確認情報の次元振動弾クワサンランカーを枝分かれ前の次元で使用したとかはどうなのかしら）

（無いね。もし新型コロナウイルスを抹消したいなら、ちょい前の同じ中国のＳＡＲＳ辺りから時間改変しないといけないでしょう。まあ兎に角沈み行く世界への情はそこそこにしてな）

（でも、未来のＷＨＯなら抗体薬を教授しても、令和世界は世界の１／６の人が推定感染して大パニックなのよ、どさくさで新薬が登場してもきっと分からないわよ）

（それがだよ、それとなくＷＨＯの伝説のマニピュレーターにして管理官のあの兎角がさ。マニピュレーターにはシールドが施されてるから化学式は無用でしょうで、けんもほろろだよ。早くも厳命が降りてるって事さ。ＷＨＯはお堅い組織ってこっただよ）

（本当に起動したウィズシェイカーで枝葉を閉じるの、令和世界もまだ生き残れる人類はきっといる筈よ）

（恋姫もさ、そう言うところは自ら歴戦の強者にしては優しいよな。ほぼ全生物種類が新型コロナウイルスに罹患した以上、暮らしぶりが太古に戻っちゃうよ。令和世界が本線として遥かに未来に伸びたら、塩不足と相まって、只管感染対策との悲惨しか無いよ。そもそもで言えばウィズシェイカーは爆弾そのもじゃなくて、人道装置そのもの。太陽光も閉ざされ永遠の深い闇が訪れれば生命は閉じて行くだけさ。聖院の大引導は冷たく感じるだろうけど、過去世界で突発事故が起きれば是正しなくちゃいけない。人類が滅んだら恐らく何らかの形で生延びる私達マニピュレーターだって寂しいよ）

（待って、この視線）

（ああ、神妙になり過ぎたか）

（行きましょう）

（良いのかな）

（良いのよ、見たまま、可愛いでしょう）

　歌姫と恋姫の口元がくすりと振り向いた先には、ここぞと猛暑対策も着飾った中学の男子加持真琴と女子榊鳴海の幼馴染が、サイン帳を出したり引っ込めたりの攻防戦を。微笑ましくも歩み寄る歌姫と恋姫が朗らかにも。

　恋姫のただ口元の潤いが綻びながら

「ねえねえ、仲の良いお兄さんにお姉さん達は私達に何の御用かしら、」

「そのサイン帳、私達セレブでもタレントでも無いんだけどさ、どうしたのさ、君達はね」

「だから言ったでしょう真琴、一般人なのよ、見た目で判断しちゃ駄目だって、」

「だってさ鳴海、この出で立ち凄いよ、この大きい日除け帽子の細かい紋様のレイヤー、世界最高峰の３Ｄプリンターでも無理だよ。ここはマレーシアかな、凄い裁縫技術持ってる工房たくさんあるし。そうお姉さん達、実の所アンバサダーアテンダントですよね、是非サイン下さい！ついでに記念写真もお願いします、こちらのお姉さん、その適度な潤いのあるリップ、きっと写真映えします」

「ああ、そっちか、各国派遣のアンバサダーアテンダントね、綺麗どころ沢山だけどそうじゃ無いんだな、真琴さ、ペンとサイン帳貸して、サインするから」

歌姫、大日除け帽子を目深なまま手を差し出しては流麗にサインを書き上げては、ポンと恋姫に差し渡す。

「真琴さんに鳴海さん、私達は仮初にも聖院に籍を置くものでして、マレーシアでは無いのですよ。でも今時のマレーシアってそこ迄凄いのかしら、そして回ってきましたよ、サインはと、はい書けましたよ」

　恋姫、真琴にサイン帳と差し出す同時に、左手を絡める様に上から伸びてきた到底見えぬ錦糸を真琴に接触させる。

「おお、恋姫さんに歌姫さんと言うのですね、ありがとうございます。ですけど、北東北の南部訛りのイントネーションに右肩上がりの抑揚は、本当はどこのお国の方なのですか」

　歌姫、目まぐるしくも

「恋姫、まずい、ぺアリングしてるなら分かるだろう、真琴のフライスタッフ適性度９３％って、ヘッドライナーでも出るか出ないかの計測値だよ、関わったらまずい事になりそうだ」

「真琴さん、あなたは今日迄に膨大なマニュアルを見て、まさかこの車種全部操作出来るのですか」

「ええそれとなく。ですけど恋姫さんに歌姫さん、心が読めるには深過ぎませんか。らべるさん、僕達置いたまま何処に行ったのかな」

　鳴海、左腕のスマートウォッチを二度タップしては

「らべるさん聞こえますか、対象者二人黒です、掃討戦お願いします」

　不意に、新国立競技場の屋根の夏草が押し上げる様に舞い上がっては、金属の擦れ合う轟音が鳴り響く。歌姫恋姫まさかとばかりも、戦い慣れた素振りで間合いを展開しフルバック臨戦態勢へ。

　そして新国立競技場の屋根より、姿は見えぬものの二体の何かの影だけが地上のコンコースに真っ逆様、ただ激しい音を立てては二つの大きな窪みを残す。

　そして程なく。新国立競技場の４５ｍはあろうかの屋根より、一張羅濃紺スーツスカートに帯刀の女性が遮二無二に舞い降り、その行先は会場案内の設営テントの上まっしぐらに。三度テントにバウンドしては抜群の身体能力のコンコースに毅然と降り立ち、何かの二体と歌姫恋姫と対峙する。

　互助会組織チーム爽の美人大学生の柚元らべるが声を張る

「真琴君、鳴海さん、見ている皆さん全員をここから避難させて、散らして下さい。ここは私が凌ぎます、お願いします」

　見えぬ何かに呆気に取られる群衆も、真琴と鳴海の指示で散って行く。

　らべる、淡々と

「私は柚元らべると申します、ヘッドライナーです、唐突かもしれないですが、ここに至るもオリンピックの会場警備の一貫で、真琴君と鳴海さんと私の三人で美旗開発銀行より直接依頼を受けています。何故には天耳通の鳴海さんがあなた達を見つけました。謎のステルス対人いえステルス対戦車掃討兵器二機を用いて東京オリンピックを台無しにするのは一切止めて貰えますか」

　らべるが言うと同時に前衛の歌姫に抜刀しては駆り出すも、鈍い音と同時に立ち開かるのは謎の機体。その檄打に耐えきれずにシーカーモードより姿を出でるは、１５ｍはあるであろうのくびれが有り強腕力秀でた黄金のゴーレム像の両剛腕が、らべるの村雨の斬撃を堪える。そして風神たる斬撃で吹き飛びたるは大日除け帽子。歌姫恋姫難なく左手で素早く掴み取っては顔色一つ変えず。

「やれ、ヘッドライナーか、困るな」

「大いに張り合い有りますわね、」

「やはりこの装備、大型人型兵器は何処の国も開発してませんよ。宜しいですか、いやしくも聖院を装おうとは罷りなりません、あなた達は何者ですか」

「らべるさん、私達は未来よりの遡行者です。西暦１１９９８年より詳細調査でこの時代に来ました。ヘッドライナーであるなら、正確な認識も大切な筈ですよ」

「それでも聖院を名乗るのが解せません、証を見せなさい」

「証も何も通達関連はそこまでです。言いましょう、それでもです、目的は言えませんがこの豊玉世界はこの一世界の平穏を齎します。そう言う事で抜刀は避けて貰えませんか。このまま二手を食らい、スキッドマニューバ２Ｇゴールドフレームの両腕が叩き斬られては、出力２１％ダウンで未来に帰れなくなります」

「そのやたら澄んだ眼差しは誠と受け取りましょう。そして目ざとくも真琴君を本質を見抜き、真琴君を遥か未来に連れて行かなければ、村雨を鞘に収めるのもやぶさかでは有りません。本当、真琴は一体何度拐かされるのでしょうか、チーム団体も軽く超えて多くの皆さん迄って、大変困りますよ」

「らべるさんは冷静にお相手を読まれるのですね。真琴君捕縛はご安心下さい。そう時間遡行は聖院の戒律と共に人体は耐えきれないのですよ。私達人型演算生体マニピュレーターでなければ体組織を保てません」

「駄目だ恋姫、この姉ちゃん、このヘッドライナー、抜刀でマニューバ二体押し出すなんて絶対あり得ない。何やかんやでマニューバがただでは済む筈がない。もう記念すべきオリンピック開会式なのに、うう見届けたいけど、これ以上出力が下がる前に切り上げるぞ」

「ふむ、話がわかる方ですね、ですが逃がしません」

　恋姫が微笑みながら、手にした大きな大日除け帽子を放り投げてはらべるとの間合いの視界を遮断すると同時に、二体のマニューバの繰り出す磁場が高次元のブームが耳を劈く。

　らべる図らずも受け取った大日除け帽子を片手に、周りを見渡すと、歌姫と恋姫とゴールドフレームともう一体の見えない機体がきれいさっぱり消え失せる気配ぶり。らべる、ただ憤りながらもお洒落すぎる紋様のレイヤーの大日除け帽子を被っては忽ちご満悦に。

「ふむ、大柄でも日差しの錯視から前は見えるのですね、丁寧に編み込まれてますね、正にフューチャーな感じです」

　私は鳴海さんの天耳通が掻い摘んで聞いた内容と修羅場の出来事を改めて整理した。彼女歌姫恋姫ら遥か過ぎる未来の聖院はこの時代の特異点観測に訪れては何か大就を成し遂げて帰って行った。タイムマシンが理論上可能か分からないけど、対峙したゴールドフレームは私の強力な斬撃を受け止める程の洗練された兵器には間違いない。その機体が自立兵器の訳もなく、彼女等マニピュレーターが直に乗り込んでいたら無類の強さを発揮出来たのに、本当に他意は無いのね。こう言う事前対処はオリンピックの警備前提でも真琴君と鳴海ちゃんの付き添いを強引な程に私に任せてきた加持唐吉さんでも無ければ分かる筈もないかな。そして率先された避難でゴールドフレームを見たのは私だけ。展開する監視カメラに映ってるかもしれないけど、開会式のそれでこの先も表に出ることは一切ない筈。まあ警邏報告書に書けるのはここまでね。

　らべる囁く様に

「鳴海ちゃん聞こえて。ＭＩＳＩＡのコンペティションは１６時よ、今から新国立競技場に入って、何としてもTHE GLORY DAYを聞かないと大損ですからね」

　程なくらべるのスマートウォッチに着信バイブ、二度タップしてはメールを開くと【もうらべるさん、進行表持っていてもセットリストのネタバレは無しですよ。はあＭＩＳＩＡ。】

　らべる、大いに頭を抱えては

「あちゃあ、やってしまった、ああでもfeaturing ＫＲＥＶＡのシークレットは言ってないからセーフ、ふう、」

瞬時にくらべるのスマートウォッチに激しい着信バイブ【らべるさん、featuringも一切禁止です。】

　らべる、ただ顔がこわばったままに

「はは、いざ全てなのね。真琴君は、そっちが凄すぎます、素の鳴海さんにきっちり付き合えるなんて…駄目、その先は言っちゃいけない」

またしても、らべるのスマートウォッチに激しい着信バイブ【それは是非言って下さい、そこは真琴ですから。本当この年頃の男子と来たらですよ。】

　らべる、ただ少年少女の対応にこまねいては、その場にうずくまり逡巡の程に。

　そして新国立競技場内より響いて来るのは、何事も無かった様に、アトラクションの節目を告げるジングルが鳴り響き渡る。