第49話 リレーのちダサい
「くっ、くっ……くははははははは! 沢渡と言ったか、まさか、お前と同じ競技になるとはなあ!」
早乙女。
以前、心愛に手を出すだけでなく嫌がらせまでしてきた、サッカー部のエース。
心愛が迷惑していたので、一芝居打って嫌がらせを辞めさせたわけだが、その後に女癖の悪さが祟って、ヘラった女子にナイフで刺されたとかなんとか。
「お前のせいで成功のサクセスロードを辿っていた俺の生活は一転……。部活に迷惑がかかるからとサッカー部を追い出され、取り巻きだった女子たちには嫌われ……今や、ゴミを見るような目で見られる日々」
早乙女、そんなことになってたのか……。
でもそれ、俺のせいってわけではなくね?
「あの時の雪辱、晴らす機会が来ないかとずっと待ち侘びていた。今日、このリレーで俺が大勝し、お前の信用を地に落としてやる! 俺のようにな!」
「お、おう」
いや、俺は勝とうが負けようがどうでもいいが。
競技の中では比較的走るのが得意、というだけでリレーに選択されたのが俺だ。べつに期待されて選ばれたわけではない。負けたところで信用がなくなるなんてこともないだろう。
そもそも、他の奴らがやりたがらなかったというのもあるからな。俺はなんでもよかったから、勝手にこの競技に選ばれたというわけだ。
「では、第一走者の皆さん、所定の位置についてください」
競技を仕切っていた体育委員の言葉に従い、第一走者の生徒が運動場のスタートラインに並ぶ。
早乙女は、どうやら俺と同じ第三走者らしい。
俺は赤ブロックで早乙女は青ブロック。ちなみに青は心愛と同じブロックでもある。
――パン!
天に向かって、スターターピストルの号砲が鳴り響く。スタートを構えていた走者たちが一斉に走り出した。
第一走者は赤ブロックのリード。続いて黄色、緑、青という順だった。
走者が走り去ったのを確認して、第三走者の俺たちも運動場に出る。第二走者が待機しているのは半周先で、スタート地点で次に待機するのは俺たち第三走者だからだ。
最初に第二走者にバトンが渡ったのは赤。出だしの差がそのまま出た形となったが、すぐに順番に変化が起こった。
それまで最後方だったはずの青ブロックがごぼう抜きして一番手に、赤は出遅れて団子状態となる。
「ふふ、はじまる前から勝負は決まったみたいだな」
早乙女が得意気に言った。
いや、べつに勝負なんてどうでもいいんだが……だが、これはまずいな。この二位以降のお団子状態。ここからドベになったら俺が戦犯である。
ついでに、ふと視界にこちらを見守る幼なじみの姿が目に入ってしまった。握り拳をつくり、俺に頑張るようにエールを送ってくる。
いいのか? 俺はお前のチームの敵だぞ?
そして隣を殴るようなポージングまで取ってみせるが、早乙女はお前の味方だぞ? 多分こいつを倒せってことだよな?
…………。
「はは、俺も嫌われたもんだな」
早乙女がそんな言葉を漏らすが、そりゃそうだろうよ。お前がやったことを忘れたとは言わせないぞ。
まずは早乙女がバトンを受け取り走り出す。
続いて俺もバトンを受け取って、早乙女の後を追った。
――はあ、もう。
適当にやろうと思ってたのに、どうやら俺はひとつ大きな思い違いをしてしまっていたようだ。自分自身に対する思い違い。
この鉢巻きを縫ってくれた心愛にあんな風に応援されると、適当になんてやれるわけがない。
いや、これは違うな。そうじゃない。俺は多分、あいつの前で格好悪いところなんて見せたくないんだ。
どうして? それは……。
「っ!」
ああもう、今はどうでもいい。
とにかく後ろの奴に追いつかれないように走って、前を走る早乙女を追い抜く。サッカー部のエースをやってたような奴だ。俺が走りで勝つなんて無理難題と思うが、それでもっ!
――が、その刹那。
前を走る早乙女に異変が起こった。
突然脇腹を抑えるようにしながらペースダウン、勢いに乗っていた俺は呆気なく奴を抜き去り――。
「……くうううう、こんな時に、刺された傷が痛むとは……っ!」
抜き去る瞬間、早乙女がそんなことを言っていた気がした。
「悠、本当に格好よかったですよ。
心愛にそう宣言される。
……いや、わかってるって。最後が史上最高にダサかったことくらい。
なにせ、バトンを渡したと同時に、俺はそのまま前のめりに派手に転倒。
勢いに乗りすぎたというか……格好良く決まったはずの勝負が、手と足に多量の擦り傷をつくりながらずっこけ、そのまま救護テントに連れられるというダサダサなオチを迎えることとなった。
「いいじゃないか。赤ブロックは優勝したみたいだし」
「よくないですよ。私の青ブロックは最下位です。はあ、あの男、あそこまで情けなかったとは。彼のせいで一気に最下位ですよ」
「自業自得とはいえ古傷が痛んだなら仕方がないさ。まあ、ざまぁとは思ったけど……って、いっ!」
「ああもう、動かないで沢渡くん。リレーの勝者なんだから、そこは我慢してっ!」
救護テント担当の、花森先生に叱られる。
「しかし派手に怪我したよね~。リレーでこんなに怪我できるなんて一種の才能だと思う」
「言わないでください」
俺も、普通はありえないと思ってますし。
すると心愛が、くすっと笑みを浮かべて。
「まあでも、それだけ頑張ってくれたってことですよね。私の応援、効きましたか?」
得意気にそんなことを言ってきた。
ああもう、あんまり調子に乗ってるとだな。
「そうだな。心愛の縫ってくれた鉢巻きと、心愛の応援のおかげだ。走る前、お前の顔を見て絶対に負けられないと思った。本当に感謝してるよ、心愛」
棒読みなんかではなく、むしろ大袈裟に、感情的にそう告げてやる。
「なっ……!?」
すると、途端にぼわっと頬が赤くなる心愛。
真っ赤に、茹で蛸のように、あるいはリンゴ飴のように。
「だ、だから、突然そういうことを言うのはですね……ううううう!」
そうそう、調子に乗って俺をからかうとこうなるのだ。
心愛が俺に詳しいように、俺だって心愛に詳しい。うん、最近は特に。一時期わからなくなっていたが、かなり詳しくなってきた。
だから、こういう反撃だってできるというわけである。
……まあ、べつに嘘は言ってないんだけどな。
「こほん。救護テントでイチャつかないでくれる?」
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